枕営業判決から考える”浮気”について

2017年02月18日 06:00

※イラストはイメージです(イラストACより:編集部)

「ホステスの枕営業は不貞行為にならない」という判決が議論を呼んだのは記憶にあたらしいことだと思います。

この事件は、妻が夫と性交渉を続けていたホステスを相手に不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を棄却したものです。

民法709条の不法行為によって損害賠償請求が認められるためには、同法の要件事実である、①故意・過失 ②違法性 ③因果関係 ④損害の発生という4つの要件を原告が主張・立証する必要があります。

判決文では「クラブのママやホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが『枕営業』であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」とし、「違法性について判断するまでもない」と断じているので、④の要件である損害が発生しなかったことを理由としているようです。

④の損害の発生を認定するにあたっては、法的保護に値する利益を侵害した場合に限るというのが従来からの通説・判例です。

「悔しかった」とか「悲しかった」という感情は人それぞれによって異なるので、何でもかんでも「損害」だと主張して賠償を認めることができないのは当然ですよね。本判決では、「婚姻共同生活の平穏」が法的保護に値する利益であって「妻の精神的苦痛」までは法的保護に値しないと判断したのです。

不貞行為に基づく損害賠償請求事件では、従来から「婚姻共同生活の平穏」を害したか否かが賠償責任の成否を決めるポイントとされています。例えば、別居して夫婦生活が(不貞行為以前から)修復不能となっているようなケースでは不貞行為に基づく損害賠償請求は認められません。

「既に夫婦生活は破綻していた」という主張は、不貞行為に基づく損害賠償請求に対して争う被告が最も多く用いるもので、私は「破綻の抗弁」と勝手に呼んでいます。厳密に言うと「抗弁」ではなく「一部否認」ですが…。
拙著「本当にあったトンデモ法律トラブル」で詳しく書いたように「強姦の抗弁」を主張した被告もいましたが…。

このように、世間を騒がせた枕営業事件は(事実のあてはめはともかく)理論上は従来からの判例を踏襲したものなのです。決して突飛な理論ではありません。

ただ、本件判断のように「婚姻共同生活の平穏を害した」という要件を狭く解釈すると、寛大な心で夫の浮気を許した妻が損をしてしまいますよね。

「今回だけは許してあげる」ということで従来通りの夫婦関係が継続していれば損害が発生しなかったことになり、妻からの慰謝料請求は認められなくなってしまいます。

逆に、一回だけお茶を飲みに行ったことが許せずに離婚問題に発展したような場合には、損害という④の要件を充たす結果となってしまいます(もちろん、このようなケースでは①の故意・過失や②の違法性が認められないので709条に基づく賠償請求は認められませんが…)。

このように、本判決の論理は配偶者の主観によって左右されてしまう恐れがあると言えるでしょう。

よく「どこまでいったら浮気になる?」という質問がありますよね。
「浮気」というのは「不貞行為」よりも広い概念で、夫婦でなくとも恋人同士でも用いられます。

「お茶だけでも二人きりは許せない」「食事は論外」「二人でドライブなんてとんでもない」という回答もあれば「他の異性に見とれるのもアウト」という厳しい回答もあります。

こういう質問に対して、私は「行為の程度は当事者間の信頼関係に反比例するもので一概には言えない」と答えるようにしています。

つまり、当事者間の信頼関係がとても厚ければ他の異性と二人でドライブに行っても関係にヒビが入らないけど、当事者間の信頼関係が希薄であれば他の異性から電話がかかってきただけでも関係にヒビが入ることがあるということです。

ですから、初デートで食事をしている時に他のテーブルの異性に目を奪われてボーっとすれば「浮気者」と思われる恐れは十分あります。逆に、何十年と連れ添ってお互いを信頼している夫婦であれば、相手が他の異性と二人でドライブに行っても「浮気」にならない場合が多いでしょう。

とは言え、「相手との信頼関係の度合いなどわからない」という人がとても多いと思います。
だからこそ、「どこまでいったら浮気になる?」かが気になって、他人の意見を参考にしたいのでありましょう。

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荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。

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