トランプ大統領の対外政策が目指しているもの

2017年02月21日 11:30

イスラエル・ネタニヤフ首相との会談では、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」に拘らないなど大胆な外交姿勢を示すトランプ大統領(Facebookより:編集部)

このブログで何度かトランプ大統領を19世紀のアンドリュー・ジャクソンと比較してみることを試みた。だがそれにしても、万が一私が言っていることに何か妥当性があるとして、つまりトランプとジャクソンの間に何らかの共通性があるとして、そのことはいったい何を意味しているのだろうか。

19世紀に「ジャクソンアン・デモクラシー」の支持基盤だったのは、新規に開拓された現在の中西部諸州の開拓者たちであった。ジャクソンは、白人低所得者層の大衆的支持を基盤にしながら、伝統的な東部中心の合衆国のあり方を変えたのであった。トランプが行おうとしているのも、同じような革命的な運動であろう。

このブログでも、19世紀前半のアメリカ合衆国の外交政策は決して「孤立主義」ではなく、拡張主義的であり、排外主義的であったことについてふれた。トランプの「アメリカ・ファースト」もまた、「孤立主義」というよりは、少なくとも「米国中心主義」と呼ぶべき路線で進められていくだろう。トランプの政策が「孤立主義」的に見えるときもあるかもしれないが、全くそうではないときもあるだろう。「孤立主義」であるか否かを基準にしている限り、トランプに限らず、アメリカの対外政策の性格は見えてこない。

だがそれにしても21世紀の今、なぜ「ジャクソン主義」的な大統領がアメリカに生まれるのか。そこが最も興味深い点だ。ジャクソン大統領が生まれた背景には、西部に向かって拡張し続けながら国力を拡充させ、インディアン(ネイティブ・アメリカン)やメキシコを撃退し続けた合衆国の歴史があった。ジャクソンは、新興諸州の大衆の気持ちを、連邦政府を通じた国民統合と合致させたことによって一時代を築いた大統領であった。しかしそれは、1860年代の南北戦争にまで突き進む各州の間の確執が、ジャクソンの時代にもすでに一つの大きな問題として存在していたことを示している。

伝統的な東部エスタブリシュメント層に対して、新興の南西部諸州が不満を抱くという構図は、すでに19世紀前半に確立されていた。よく言われていることだが、トランプ大統領は、こうした構図で説明することができる白人中間層・低所得者層を支持基盤に持っている。現状に不満を持つ労働者層が生まれていること、彼らが既存の東部エスタブリシュメントの経済政策に期待していないこと、彼らの不満の度合いが過去数十年にはない程度にまで高まっていることが、トランプ大統領誕生の背景にある事情であることは、間違いない。

同時に、ジャクソンが、米英戦争(1812~1814年)で英雄的とされた軍事的功績をあげて、大衆的な人気を博して大統領にまで上り詰めた人物であったことも見逃せない。18世紀のアメリカ合衆国は、イギリスの勢力を削ごうとするフランスなどのヨーロッパ列強の支持を得て初めて独立を勝ち得た旧植民地地域にすぎなかった。つまりヨーロッパ内部のバランス・オブ・パワーの原理を利用することでしか存在しえない政治体であった。しかし国力を充実させ、1823年の「モンロー大統領の宣言」によって、ヨーロッパ列強の「新世界」への干渉を排除する意志を示すようになる頃までには、ヨーロッパから隔絶した独自の地域国際秩序(「モンロー・ドクトリンの地域国際秩序」)を西半球世界に確立することを目指せる国になり始めていた。

今日のアメリカは、あらためて自国を中心とした地域国際秩序を再確立することを目指していると考えることができる。トランプ大統領の強力な支持基盤の一つが、テロ対策を拡充させ、「対テロ戦争」を断固として戦い抜くべきだと考えている階層であることには、もっと注意が払われてよい。アメリカは、あらためて新しい自国中心の部分的な国際秩序のあり方を見定めることを模索しているのである。

もっともそれは19世紀前半とは、逆のパターンで、進んでいるプロセスではある。冷戦終焉後のアメリカは、特に21世紀に入ったときのブッシュ政権時代のアメリカは、しばしば「帝国」と揶揄された「ユニラテラリズム」に基づく対外政策で、世界全体をアメリカの望む色に染め上げることを目指し、中東における軍事介入・占領という禁じ手まで使った。オバマ政権は、ブッシュ路線からの撤退を目指したが、さらにトランプは、あらためてアメリカの影響圏を縮小再編しながら、かえって国力を充実させることを目指していると描写することができるだろう。

「モンロー・ドクトリン」の適用範囲は、20世紀初頭にウッドロー・ウィルソン大統領によってヨーロッパにまで広げることが画策された。議会の反対に遭ったウィルソンの政策は、第二次世界大戦後には、国連体制として、そして冷戦勃発によって「トルーマン・ドクトリン」として、修正発展した。冷戦中の「西側陣営」の同盟網は、19世紀「モンロー・ドクトリン」下のアメリカを覇権国とする「西半球」の「新世界」における地域的国際秩序の発展形態である。2001年にブッシュ大統領は、「either with us or without us」という言葉で代表される「ブッシュ・ドクトリン」を表明し、いわば世界的規模の「モンロー・ドクトリン」の確立を目指す姿勢を鮮明にした。しかしそれが非現実的な夢物語であったことを、アメリカ国民こそが強く感じているのが、現在の様子である。

21世紀版の「モンロー・ドクトリン」の適用範囲の修正が必要なのである。トランプ大統領は、決して単純な「孤立主義者」ではない。そのことは、彼の外交が、大西洋の反対側でEUから離脱する島国であるイギリス、太平洋の反対側で中国と対峙する島国である日本の首脳との会談から開始されたことによって、示されているように見える。

トランプ外交の戦略的見取り図は、やがてもう少しは鮮明になるだろう。それは世界的規模でアメリカの覇権を確立しようとする「グローバル主義」的なものではないだろう。しかし同盟国との関係を一気に清算しようとするような「孤立主義」的なものでもないはずだ。

アメリカは、21世紀の「モンロー・ドクトリン」の適用範囲をあらためて見定めようとしているのである。


編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年2月21日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた篠田氏に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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