政府は米国務省の人権報告書に反論を

山田 肇

日本経済新聞が3月4日付で『高市氏の電波停止言及「報道の自由懸念」 米人権報告書』と報じている。国務省が発表した、「世界各国の人権状況に関する年次報告書(2016年版)」を引用した記事である。

報告書原文にあたると、該当記述の主要部分は次のとおりである。

高市総務相は、政治的に偏っていると判断した放送局を閉鎖する政府の権利を、そのような一歩を踏み出す計画や意図を否定しながら繰り返した。意見・表現の自由の権利に関する国連特別報告者は、4月の訪問の後、「報道の自分は深刻な脅威に直面している」と述べ、「法的保護が弱い」と指摘した。

メディアは明白な制限なしに幅広い種類の意見を表明してきた。それにもかかわらず、大手新聞や放送局を含む報道関係者は、政府が主要なメディアに対して自主的な検閲を間接的に奨励しているのではないかという懸念を表明した。

報告書には間違いがある。第一は国連特別報告者が偏った指摘をしているのに気づいていないこと。第二は米国と日本の放送法制が異なるのを知らないことである。

世の中に赤と青の意見があるとしよう。ある放送局は赤の意見を、他の放送局は青をというように、放送局ごとに異なる意見を表明するのが米国流である。だから、トランプ大統領は自分を支持するFOXが好きで批判派のCNNを毛嫌いする。そのような国で、自分の意見に反するからとたとえば赤の放送局を閉鎖したら、それは言論の弾圧である。赤の意見に国民が触れる機会が失われるからだ。

一方、わが国では放送局に政治的中立を求め、各局とも赤と青の意見を放送する。たとえば赤だけしか放送しないとしたら放送法違反であり、免許停止の理由になり得る。しかし、その放送局を閉鎖しても他局は赤と青の意見を放送し続けるから、国民が赤の意見に触れられなくなる恐れは少ない。

「そのほか、××も立候補しています。」と添えることで政治的に中立とのふりをするよりも、米国流に変更したほうがよいと僕は考えている。しかし、現行は違う。総務大臣の発言は現行法制の下で政治的中立を求めたのに過ぎない。

この報告書は、国連特別報告者の時と同様に、現政権を批判しようというグループに格好の材料を与えるだろう。政府は日本の放送法制について、米国を含め、国際的にきちんと説明するべきだ。