ひとり親支援をしているNPO法人フローレンスの駒崎です。昨日は国際女性デーなので、女性の人生にも大きく関わる話を。
先日「面会交流にひとり親は殺された」という記事で、家庭裁判所実務において面会交流(離婚後に同居してない親と子どもを会わせる行為)が原則実施であることで、人が殺され始めていることに警鐘を鳴らしました。
それに呼応するかのように、民進党の初鹿明博議員が、さる3月3日に国会厚労委員会で質問をしてくださいました。これが問題の本質を捉えていて見事だったので、ご紹介いたします。
(語尾や言い回しは著者が書き言葉で調整)
面前DV(=児童虐待)でも面会交流判決
初鹿「ある名古屋家裁の判決文を持ってきました。申立人で「会いたい」と言っているのは父親です。この父が妻に度々暴力を振るっていた。子どもの前でも暴力を振るっていた。でも、未成年者の子どもへの直接暴力は確認できていない。だから、面会することが未成年者の福祉を害するとまではいえない。で、(家庭裁判所は)面会交流認めているんです。
そこで厚労省にお伺いしたい。子どもの目の前でDVを行う、面前DVは虐待にあたると思うが、違いますか?」
厚労省「児童の面前で配偶者に対する暴力が行われるのは、児童に著しい心的外傷を与えるものでありますので、児童虐待にあたると解されています。その場合、暴力を振るった側は、児童虐待の加害者となります」
初鹿「つまりこの判決は、児童虐待の加害者に面会交流を認めているということですよ!
DVの被害者の母親がその場にいなかったら、加害者だった父親は、その瞬間に加害者じゃなくなるんですか?私は違うと思うんですよ。
こういう認識がまだまだ家庭裁判所には不足しているということを指摘したい」
面前DV(=児童虐待)でも、家庭裁判所が面会交流を強制する、という驚くべき実態を抱える国が、この日本だということです。
児童福祉に携わるものとしては、もう目眩がするほど、司法による無理解が蔓延している、という状況です。
一般論が、いつのまにかドグマに
さらに、僕の過去記事でも指摘したように、民法766条には「面会交流が原則」なんて一言も書いてないのに、いつのまにか家庭裁判所が勝手に面会交流を原則にしてしまったことを、初鹿議員は突っ込みました。
それに対しては、以下のようなやり取りがありました。
初鹿「民法にそういうふう(面会交流が原則)に書いてありますか?(中略)ここは法務省にきちんと見解を伺いたい。お答えください。」
法務省「(民法の)文言は今、ご指摘の通りでございます。
が、この時の審議等に照らして振り返ってみますと、特段問題とならないようなケースでは、基本的には夫婦の離婚と親子の離別は別の問題ですので、子どもの健全な成長という面からすると一般的にいえば、親との接触が継続することが望ましい、ということは改正の際に考慮されていたとは思います」
初鹿「一般的にはそうかもしれないけれど、裁判所の調停や審判に持ち込まれているような場合、夫婦間でかなりの葛藤があって、敵対関係があって、持ち込まれるのが大半なんではないですか?そういう場合に面会交流を継続するのが、本当に子どもの福祉にかなうのか、慎重に考えるべきです」
ということで、法務省は一般論を述べただけで、家裁実務で行われている「面会交流が原則」の正当性について、答えることができなかったわけです。
ここから分かるのは、「家庭裁判所の面会交流原則に、一般論以上のきちんとした根拠はない」ということです。
こんなことで、全国にあまたいる高葛藤状態に置かれた夫婦とその子ども達が、面会交流によって苦しめられているというのは、なんという悲劇でしょうか。
面会交流原則の見直しと撤廃
解決策はなんでしょうか。最後に私見を述べたいと思います。
まず、一律面会交流の原則を、法務省通知で撤回し、「個別の事情を深く丁寧に審理し、DV等を含む高葛藤事例においては面会交流をしなくても良い」とするべきです。
一方で、それを行うと、家裁のマンパワーが不足している現在、家裁実務が回らなくなる恐れがあります。
よって、面会交流支援に予算を投入し、家庭裁判所全体のマンパワーの強化と継続的なトレーニングや意識改革を実施し、「個別の事情に寄り添い丁寧に審理する」体制を、家庭裁判所内で、構築・強化できるようにするべきでしょう。
また、子どもの心の問題について専門知識を有する児童精神科医を複数名、家裁ごとに配置することも急務ではないでしょうか。
間違っても、現在進められようとしている、「DV気味でも、子どもを連れて逃げちゃダメだよ。ちなみに面会交流は原則実施ね」と定める親子関係断絶防止法を成立させていけませんし、それが答えではないのです。
離婚後の夫婦の幸せは、子どもの幸せにも繋がります。それを法務官僚や家庭裁判所のいい加減な慣例に任せず、最も弱い立場にある、子どもやDV被害者の立場を軸に行っていくことが、必要なのではないでしょうか。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年3月9日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。