皆さんは、「キチョハナカンシャ」という用語をご存知だろうか?そう、意識高い系がよく使う言葉である。よく就活の会社説明会とか、講演会で質問する奴が前置きに使う「本日は貴重なお話、まことにありがとうございました」の略である。
「○○大学の○○です。本日は貴重なご講演ありがとうございました。貴社の取り組みにおいては○○という点が素晴らしいと思っていて、私も以前から本を読んで勉強していたのですが、本日、経営者の方とお会いできて嬉しいです。私も普段から御社の製品を愛用しています。あの質問なのですけど・・・」
みたいな感じで、質問の前が長いのがポイントだ。
過去に圧倒されたのは・・・。
「早稲田大学3年の○○です。あの、私は生活を保障する上でも、生き方の多様性を実現する上でもベーシックインカムの導入が必要だと考えています。現在、文字通りのベーシックインカムを導入している国はまだありませんが、今後、誰もがいきいきと働ける社会を作るためにも、人が死なない社会を作るためにもこれが必要だと思うのですが、どう思いますか?」
という話を、ベーシックインカムとは99%くらい関係ないセミナーでされたことだ。その学生はTwitterで、「ちゃんとベーシックインカムのこと、アピールしてやった」みたいなことをつぶやいていた。
これは学生に限らず、社会人もやるもので。さらに言うならば、先日、参議院の調査会で参考人として呼ばれるという貴重な機会を頂いたが、政治家の皆さんも(いや、彼らこそ)「キチョハナカンシャ」の使い手だということが大変に勉強になった。質問をする前に、自分の問題意識などに関する説明があった後、質問に入るのだった。
この「キチョハナカンシャ」に近いのが・・・。文庫の解説だ。最近、趣味の読書で手にとったこの本が大変に秀逸だった。
文庫は、名作、傑作、話題作を手にとりやすいお値段で共有してくれるスグレモノである。文庫化される際には、誰かが解説を書く。その作品から影響を受けた人や、その分野の専門家から、「え、この人?」という変化球もあったりする。
その本や著者に対するリスペクトもあれば、disりもあったり。さらには、珍説を唱える者や、まったくの我田引水をする者までいる。まったく・・・。
この件を面白おかしくいじっているのが、斎藤美奈子さんによるこの本だ。いやあ、面白かった。私のような文学をあまり読まない者にも参考になり。
そもそも文庫って、かなり前の作品もあるわけで。そこに新たな解説がついたりもし。時代の変化を埋める役割を果たしたりもするわけだ。うまく機能している場合は。一方、そこで、名作と言われる作品も、いまや解説をつけないと、若い人に届かないよなあということもあるわけで。
もっとも、解説というのは、気をつけないと単なるヨイショになることもあり。バランスが大事だな。
この本の中でも触れられているが、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』が文庫化された際の、高橋源一郎による解説は、「そうきたか」という感じだ。『なんクリ』をマルクスの『資本論』にたとえているのだ。いや、私もまさに読んでいて。感心したのだけど。
まあ、文庫本の解説をいじりつつ、実は著者の斎藤美奈子さんのコメントが一番面白かったりする。この、ゆるそうで知的なのも、岩波新書っぽいなあと思ったり。あー、面白かった。
私も文庫の解説は3回書いたことがあって。
宮台先生のこれとか・・・。
このグローバル人材ストーリーとか。
大谷由里子先生のこの本とかね。
・・・斎藤美奈子さんの本を読んで猛反省。どれも、ヨイショって感じでまとめてしまったかなあ、と。もっと、キチョハナカンシャ的に、我田引水とかやっちゃうべきだった。めちゃくちゃに書くとかね。
自分の本で文庫化されたのはこれだなあ。
この本は海老原嗣生さんに解説を書いてもらったんだよな。
というわけで、また解説を書かせてもらったり、書いてもらう機会があればいいなあと思う今日このごろ。
しかし、春ですなあ。一部は桜が咲いていますなあ。花粉症、落ち着かないかなあ。
さ、今日も楽しく読書しますかね。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年3月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。