著作権制度の改正論議、大詰めにて。

中村 伊知哉

文化審議会著作権分科会WG。「柔軟な権利制限」の議論大詰め。3類型にして権利制限をやや「利用者側」に寄せようという作業です。ほぼネット利用への対応であり、必要な法整備。知財本部での議論を元に審議会で制度を具体化するものです。

ぼくは著作権は「制度よりビジネス」を標榜してきました。制度改正に何年もかかって、かつその効果が小さいのが通常だから。それより実サービス、実ビジネスで著作物の生産・流通・消費を増やすことのほうが効果的であり実効性が高いと考えてきたからです。

ただ、今シーズンの制度論議は、久しぶりにぼくも参加してみたところ、「大きな見直し」に向けて勢力が注がれていて、意味のあるものと考えています。政府・委員はじめこの問題に汗をかいているかたがたに敬意を表します。

ぼくは今回の審議会の方向性に賛成ですし、事務局にもよく整理してもらっていると考えます。審議会では激しい議論がありながらも、コンセンサスが取れそうです。しかし私の関心は既にその後にあります。発言はしなかったので、メモしておきます。2点あります。

まず第一に、これが法律として成立するのかどうかです。
これが利用者、権利者、産業界などステイクホルダーの理解を得られるのか、はもちろん重要ポイントです。法律となるためにはその環境整備が必要です。

国会・与野党にも本件についてはさまざまな意見があると聞きます。慎重派・推進派がなお割れているとか。かつてより著作権制度に対する注目度が高くなっていることも感じます。政府提出の法案が成立するには、政府と国会との間でかなりの調整が必要です。

また、そもそもこれが政府の成案として、内閣法制局を通って提出されるのかどうか。実はこれが一番気になっていることです。というのも、5年ほど前に同様の議論が審議会で行われ、いったん結論に達しながら、内閣法制局を通らないというできごとがあったからです。

今回議論しているのは、ネット上のコンテンツ流通の利便性を高める方策ですが、これはある程度、これから生まれるサービスや利用法を先取り想定して制度を作る必要がありますが、内閣法制局は、空想ではなく「実態」に基づいた法律を死守しようとするため、バッティングするわけです。

実態を先取りした著作権制度が作れないため、ネット検索サービスが日本で立ち上がらなかったという見方があります。だからチャレンジするため政府で議論しているのですが、実は壁は政府内にあるのです。

これらに対し、ぼくらができる、体外的なメッセージや動き方はないのか。これが第一のポイントです。

もう一点は、知財計画が求めているガイドラインの策定です。
「柔軟性のある権利制限規定に関連して、予見可能性の向上等の観点から、対象とする行為等に関するガイドラインの策定等を含め、法の適切な運用を図るための方策について検討を行う。」(知財計画2016)

法律にはざっくりしたことしか書かないので、細かいことは裁判で白黒つける、のが著作権制度のやりかたでした。通常の行政法のように、役所が解釈したりコンメンタールを書いたりしなかったんですが、今回、事前に白黒つけやすいようにガイドラインを作ろうというものです。

これは法案策定後の作業でしょうが、より細かい解釈や考え方を、審議会の委員やステイクホルダー、場合によっては立法府や司法の参加も得て作っていく努力をするのがよいと考えます。これまでの枠を広げる取り組みをすべきタイミングだと考えます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年3月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。