AV出演強要問題の不都合な真実(後編)

2017年04月28日 06:01

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政治日程に上がりつつある「AV出演強要問題」。今後の展開によっては、AV業界に壊滅的な打撃を与えかねない(写真はイメージです。gatagより:編集部)

前回、伊藤和子弁護士が「個人が撮影し流通させている映像はAVに含まないが、審査団体を通さない映像もAVと見なす」と書いたことを述べた。つまり、PAPSが眉をひそめる正体不明の個人撮影者やグループによる作品はAVに含めない。なのに、AVメーカーが自らの合法性の拠り所として運用している審査団体の権威を完全に否定しているのだ。伊藤氏は、自身のブログで「AV業界を潰そうとは、全く考えていません」(’16年6月16日)と書いているが、そもそもAV業界自体を理解しているのか疑問だ。

こうした姿勢は、「AV出演強要」を追及する側においては官民の壁なしに共有されており、内閣府が2月8日に公表したアンケート調査でも窺える。ここでは、JKビジネスや児童ポルノとAVが同列に扱われている。これについての宮本氏の見解こそが、AVメーカー側とそれを追及する側との大きな溝なのだ。

「JKビジネスも児童ポルノも、アダルトビデオといえばアダルトビデオといえる内容になっているものもありますよね? それに児童ポルノもJKビジネスもAVも、女性の男性に対する性的な身体の提供ということで、課題としては地続きです。児童ポルノ法と売春防止法という形で法律が分かれているから別物のように思うかもしれないけれど、地続きの問題です。法律がバラバラなので、子どもから大人までひっくるめて対応できるような法が必要だと、伊藤和子弁護士はおっしゃっているのだと思う」

一方、IPPA幹部は、「AV業界が’80年代に立ち上がってからもう30年以上。かつてはいい加減な世界でしたが、今では法人登記し、納税もして一所懸命にビジネスの仕組みを作り上げてきた誇りと自信があります」と、肩をすくめながらも胸を張る。かつては法の遵守においてルーズだった時期があったかもしれないが、もうそんなビジネスができる時代ではないというのが彼らの主張だ。しかし、宮本氏に言わせれば、有効な反論ではない。

「AV強要側の主張で、自分たちは業界の健全化に向けて一生懸命きちんとしようとしているのに、JKビジネスなどと一緒にされたくないという気持ちもあるかもしれません。ですが、外から見たら、その業者がきちんとやっている業者かどうか分からないですよね。その混乱が、内閣府のアンケートにも反映されていると思う。ただ、(JK・児童ポルノ・無修正動画・個人撮影動画・AVなどが一緒になってしまっている)混乱があるからといって、この調査が間違っているとは思わない。これまでなかった調査をこのように実施したこと自体が一筋の道を拓くもの。このあたりに問題がありそうだという数値が出てきて、やっと論議にあげられる段階なのだろうと思う。調査の精密性に関しては、いろんな角度からやりなおして見直しをかけていく必要はあるのかもしれないが、これはまず第一歩でしょう」

そしてメーカーやプロダクションなどAV業界が身の潔白を証したいのであれば、「自分たちは今こういう状況でクリーン化している、正常化しているというのを、証拠に基づいて話すべき」と宮本氏は提言する。具体的には、インフォームドコンセント(適正な説明の上での同意)である。

「PAPSが受けている最も多い相談は、先に言ったように商品の販売停止に関するものです。『10年以上前に出演したが、子供が思春期になったので自分のAVを見られたくない』と過去の作品に対して作品の削除を求める人。それから、性的な自分の身体を一度は提供することを許可し、公開したんですけれど、流通する直前、もしくは流通した後に『性的な人体を公衆にさらすのはいやだ』と訴える人が出てきたんです。性的な身体を映像に撮る事に関しては、医療におけるインフォームドコンセントと同じように考えるべきで、女性にしろ、男性にしろ、最もプライベートなところを使った映像制作においては、説明と同意に関してはもっと手順を踏んだやりかたをしないと、相談は増える一方だと思います。メーカーやプロダクションが、インフォームドコンセントの実施マニュアルを公表し、どんな手順でAV出演について説明し同意を取っているかを公にすれば、説得力を持つ。『これにのっとってやっているので、自分のところでは男優も女優も全部同意している』と、疑われる余地なくいえると思います」

つまり、AVを追及する陣営は、AV出演強要という刑法に抵触する強烈な罪状をあげて世論の耳目を引き、これを突破口として出演者のリクルート部分に切り込もうとしているのだ。

対するAVメーカー側は、「伊藤和子弁護士が主張しているような出演強要の事実が我々の側では確認できていない以上、出演強要されたからという理由で商品の販売停止を求められても応じられない。しかし、我々は女優さんありきのビジネスであるから、結婚や就職をして、今の生活に差し障りがあるからという理由ならば個別に応じていきたい」との見解を示している。

だが、3月21日にはAV出演強要被害などに関し、首相官邸で関係府省の対策会議が開催するなど急ピッチで事態が進んでいる。論点がいつしか「AV出演強要」から「AV女優のリクルート」にすり替わっているにも拘らず。

おそらくこの先にAVメーカーを待ち構えているのは、おそらく地獄である。かつて一世を風靡した消費者金融各社は、過払い金返還請求の嵐に遭って軒並み退場していったが、それと同じ目に遭う公算が高い。つまり、かつて適法に成立したと信じて結んだ契約が、5年、10年を経過した後から、遡って無効になるという展開だ。

なにしろ現在のPAPSには、過去にさかのぼったAV出演についての相談が多く来ており、近い将来、これがメインになっていくだろうと宮本氏は見ているのだから、AVメーカーにとっては穏やかではない。

「出演していたときは強要されていたという意識ではなくて、5~10年経ってみて、今の(国内外様々なサイトに自分の作品が出ている)現実をみた場合に恐ろしくなって、不安神経症になった人からの相談がありました。毎日のようにメールがくるけど、そんな丁寧に返事をしていられない。そうすると、何月何日にメールしたんだけど、お返事まだ頂けていませんというというメールがきます。ある例では、数ヶ月の間に90件のメールをウワーッと送ってくるように心が病んでしまっている。契約するときは気をつけなさいとか、やたらに勧誘にのるなみたいなのが、今メディアで情報に流れているじゃないですか。なので、かつて出演しちゃった人が5年10年経って、相談をかけてくるというのが、これから増えて、メインになってくるかと思います」

ちなみに、宮本氏は“病んだ原因”をAV出演や引退後も出演作がネット上に溢れていることだと話すが、因果関係は定かではない。

話は反れたが、仮にAV業界がインフォームドコンセントを導入した場合、導入前に撮られたAVの取り下げを要求されたときに、それを拒むことは困難だ。AVメーカーは過去の映像資産すべてについて潜在的な販売中止リスクを背負い込むことになる。このことを追及側はおそらくわかって動いているが、AV業界側はどうなのだろうか…。4月17日には法学者や弁護士など有識者が委員として名を連ねる「AV業界改革推進有識者委員会」が立ち上がっている。改めてAV業界側の考えも聞いてみたい。

関連リンク PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)

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中山 美里
ライター、株式会社オフィスキング取締役

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