「人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻のごとくなり」。「平敦盛」を討ち取って出家した熊谷直実の言葉で、幸若舞(曲舞)の演目のひとつだが、織田信長が好んだことでもしられている。「人生は五十年しかないのだから、決死の覚悟で思い切ってやろう」という、当時の戦国武将の死生観をあらわしているようにもみえる。
今回は、信長がしたためた興味深い出版物を紹介したい。しかし、この御仁は戦国時代の「信長」ではない。早稲田大学教育学部を卒業して、ホスト業界に身を置いている。信長が実業家の斉藤一人と成功哲学や生き方を語ったドキュメント、『斎藤一人 人間力 一人さんと二人で語った480分』を紹介する。
以前、信長氏の著作を紹介したことがある。興味深いのは、浮き沈みの激しいホストの世界にあって長きわたり活躍をしている信長氏のバイタリティであろう。今回、紹介する書籍の発行元は「信長出版」という会社だ。最近、信長氏が設立した会社だが、出版を自分でやってのけようとするところに強いバイタリティを感じる。
嫌われないこと、挑戦すること
――成功したいならまずは嫌われない人間になっておくこと。「嫌われない=敵をつくらない」ことはなにをするうえでも大切なことだと信長氏は語る。
「ホスト業界においてもまったく同じです。実際には僕自身も、好かれたりモテるための巧みなトーク術などはあまり必要ではないと思います。『嫌われない人間になるには』という視点は、どんな人間関係においても適用できることです。」(信長氏)
――嫌われてしまうとビジネスが進展しにくくなる。
「ビジネスは、人を介してしか成立しないのは明らかです。今、自分の部屋のなかにあるすべてのモノは、モノとして存在していますが、それぞれに、見えないところでたくさんの人たちが関わってきたモノばかりです。そう考えると、成功するには『人間通になる』ことが大切です。人間がすべてのモノを運んでくるからです。」(信長氏)
「人間通こそがビジネスを制するともいえます。まずは成功したいなら、敵をつくらず人と仲良くなることが必要でしょう。」(同)
――次ぎに、「人間通」になるにはどうすべきかという論点になる。信長氏の論では、これは努力というよりマインドが重視されるようだ。
「時間が有りあまっていたとしても無駄に時間を過ごしたら意味がありません。時間が有りあまっているからといって、テンションの上がらないことを続けるのではなく集中できることを一刻も早く見つけられるようになることが必要です。『こうしなければいけない』『ああしなければいけない』という葛藤のなかで見つけるものではありません。」(信長氏)
「自由に自分の人生を選べばいいのです。自分があるひとつのことを経験してみて、そして違うと思うなら別の道を選べばいいのです。」(同)
――斎藤一人氏は本書のなかで、「失敗はいいものであり、後悔なんてありえない」と言っている。実際、若いうちのほうが失敗のリスクやダメージも低い。チャレンジ精神が豊富な若いうちから挑戦すべきなのかもしれない。
自分の軸を変えないこと
――故スティーブ・ジョブズの言葉で次のようなものがある。「素晴らしい仕事をする唯一の方法は、それを好きになることだ」。つまり、「情熱もないまま何かを続けることは難しい」という解釈にもなる。
「辛さをこらえながら、目標に向かって一生懸命努力をすれば、ある程度の成功は得られるかもしれません。でも、それは、無理をした成功です。自分に忠実に、ブレのない自分自身であることだけが真の意味での成功を導きます。もちろんそのためには、自分自身というものをしっておく必要もあるでしょう。」(信長氏)
「今回の対談中、何度も一人さんが言っていたのは『自分に向いていることをやるべき』ということです。自分だけにしかできないことが見つけられれば、誰もが前向きな気持ちで物事に取り組めるようになるはずです。」(同)
――これは、「自分にあっていることは何なのか自問自答してみる」ことでもある。「人間五十年」、長いようで短い。著名実業家とホスト界で成功した男の思考術に関心のある方には一読の価値があるだろう。いままでの自己啓発に無い刺激が得られるかもしれない。
参考書籍
『斎藤一人 人間力 一人さんと二人で語った480分』(信長出版)
尾藤克之
コラムニスト
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