原田泰氏は日銀審議委員を辞任せよ

ユダヤ人の人権団体、サイモン・ウィーゼンタール・センターが、日銀の原田泰審議委員の発言について「深く憂慮」して「日本のエリートにはナチとホロコーストについて教育が必要だ」という声明を出した。Abraham Cooper副理事長は、次のようにコメントしている。

Once again we are witness to a member of the Japanese elite invoking praise for Hitler and Nazi policies – this time from a Central Banker official. An outrage. […] While we note his apology, Yutaka Harada, a member of the board of the Bank of Japan praised Hitler’s economic policies as “appropriate” and “wonderful”.

表現にはやや誇張があるが、「誤解」とはいえない。ブルームバーグによれば、この発言は29日の講演のあとの記者会見で出てきたものだ。「金融緩和は将来の需要を前倒しするだけだ」という記者の批判に対し、原田氏は「世界大恐慌時に積極的な財政・金融政策の必要性を説いたケインズ」を例に出して、こう反論したという。

ドイツでケインズの言葉通りにやったのがヒトラー政権だ。ヒトラーが正しい金融・財政政策をしてしまったことによって、かえって世界が悪くなった。ヒトラーが正しい財政・金融政策をやらなければ、一時的に政権を取ったけれども、国民はヒトラーの言うことをそれ以上、聞かなかっただろう。彼が正しい財政・金融政策をやったが故に、なおさら悲劇が起きた。ヒトラーの前の人たちがやればよかった。

これは事実誤認である。1936年に出版されたケインズの『一般理論』を、1933年に首相に就任したヒトラーが知っていたことはありえない。失業対策は彼の前の政権も打ち出していたが、ヒトラーはそれを独特の方法で「解決」したのだ。当時の失業統計を再掲すると、図のようにヒトラーが政権を取ってから失業者は激減した。


これは1933年にヒトラーが実施した「第1次失業減少法」の効果である。その中身は何だったのか。『ヒトラーとナチ・ドイツ』によると、ヒトラーの「失業への総攻撃」の特徴は次の3点である。

  1. 勤労奉仕を義務づける:18歳になった若者に半年から1年間、建設労働などの公共事業で奉仕することを義務づけた。
  2. 女子労働者を労働市場から減らす:女子労働者の勤労意欲をそぐために結婚奨励貸付金制度を設け、専業主婦になることを奨励した。
  3. 徴兵と軍需工場に動員する:ドイツはヴェルサイユ条約で軍事力の強化を禁じられていたが、ヒトラーはこれに違反して1935年に一般徴兵制を導入し、毎年100万人を戦場に送り込んだ。また国民を軍需工場に動員した。

このような戦時経済体制によって失業者は劇的に減少し、1933年の557万人から39年には12万人になった。この財源は戦時国債(メフォ手形)で調達され、ドイツの工業生産は5年間で倍増したが、戦費の調達に迫られたヒトラーはシャハト経済相(中央銀行総裁)を解任して中央銀行に大量の国債を引き受けさせ、財政は破綻した。

原田氏がこのような国家社会主義を「正しい経済政策」として賞賛したことは、日銀の姿勢が問われる。彼は「誤解だ」と主張して発言を撤回していないが、早急に撤回して謝罪し、みずから身を引くべきだ。