AIとベーシック・インカムで実現する3時間労働:『隷属なき道』

2017年07月16日 12:30
隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働
ルトガー ブレグマン
文藝春秋
★★★☆☆


AI(人工知能)に雇用が奪われるという類の話がこのごろ増えてきたが、それは恐れるべきことではない。単純作業がAIに代替され、働かなくてもよくなるのは望ましいことだ。ケインズは「孫たちの経済的可能性」という講演で、2030年に労働時間は1日3時間になっているだろうと予言した。

私たちの内なる古きアダムはあまりに強いため、みんな満足するためには何かしら働かねばならない。だがそれ以上残っている仕事は、できるだけ広く共有しようとするだろう。1日3時間労働や週15時間労働にすれば、この問題をかなり長いこと先送りできる。というのも、1日3時間も働けばほとんどの人の内なるアダムは満足するからだ!

マルクスも、未来の「自由の国」では労働が遊びになると考えていた。それは20世紀には空想だったが、21世紀にAIで大幅に余暇が増えると、暇つぶしが人生最大の問題になるだろう。すでに日本は高齢化で、そういう時代が始まっている。

これはそう突飛な話ではなく、経済学では賃金は労働の苦痛(限界不効用)と一致するので、長時間労働の苦痛が賃金の効用より大きい場合には、労働時間を減らして賃金を減らすことは意味のある解決策だ。問題はそれによって所得が減ることだが、一律のベーシック・インカム(BI)を配って最低限の生活を保障すればいい。

老人が死ぬまでに使い切れない資産を貯蓄する一方で、現役世代が生活のために残業する現状は不合理なので、社会保障をやめてBIを配ることは効率的な資源配分だ。本書はこのような労働から余暇への転換をBIで実現しようという提案で、オランダのネットメディアから広がり、アマゾンのオンデマンド出版で世界に反響を呼び、各国語に訳された。

発想はおもしろいが、BIの提案は昔からある。問題はその財源だが、本書は何もふれていない。最大の難点はBIをばらまくと、社会保障にただ乗りする移民が大量に流入することだ。本書は「所得格差をなくす究極の手段」として国境の廃止を提案するが、ここでも財源は何も考えていない。

ヨーロッパでは昔からBIの実験が行われ、その財源をVAT(付加価値税)で調達するEU税制改革も提案されている。本書は「租税競争」を規制せよというが、それは逆だ。むしろ法人税や所得税を廃止して、グローバルなVATとBIを組み合わせるのが、超長期の税制改革だろう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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