負の所得税はベーシックインカム(アーカイブ記事)

池田 信夫

社会保障国民会議で給付つき税額控除の議論が始まりましたが、国会議員がこの言葉をほとんど理解していないので、「給付だけにしろ」とか「税額控除は複雑だ」とか混乱した話が続いています。

これは名前が悪い。給付と税額控除(税の還付)は同じ制度なので、別々に実施する意味はありません。これはフリードマンのもとの名前のように負の所得税(Negative Income Tax)と呼んだほうがいいと思います。

負の所得税を拡大するとベーシックインカム

この規模を大きくすると、ベーシックインカム(BI)になります。これはたとえば図のように、すべての人に(たとえば)80万円を一律に支給します。年収50万円の人には生活保護の代わりに差額の30万円を支給し、所得が80万円以上の人からは所得税20%を徴収した上でBIを支給します。年収500万円なら、手取りは80万円+(500万円×0.8)=480万円になります。


負の所得税(定率型)

他方、負の所得税は社会保障をやめ、税制だけで所得再分配するものです。課税最低所得が年400万円だとすると、それを超える所得に(たとえば)20%課税し、それ以下の人からはマイナスの税金を取る、つまり税金を還付するものです。年収500万円なら、手取りは400万円+(100万円×0.8)=480万円です(定額型もあります)。

つまり負の所得税とBIは思想的にはまったく違いますが、算術的には同じなのです。一律に給付するBIのほうが税務は単純化できますが、カナダの一部で行なわれた実験では「働かなくても金がもらえる」というBIのイメージが労働倫理に悪影響を及ぼすので、負の所得税のような形で労働所得を補助することが現実的でしょう。

今の社会保障制度を廃止することが条件

財源はどうするんでしょうか。国民全員に年間80万円のBIを支給すると、80万円×1.2億人≓100兆円の財源が必要です。これを払うことは、今の社会保険料(82兆円)と消費税(26兆円)をすべて転用すれば可能です。

つまり負の所得税は、公的年金などの社会保障を税に代替する思想なのです。もちろん社会保障には年金受給権などがあるので法的には困難ですが、不可能ではありません。ただ所得税では資産を計算に入れてないので、資産課税と併用する必要があります。医療保険も基礎的な医療だけに縮小し、BIで医療費を現金支給したほうが効率的です。

BIや負の所得税は理想に近い再分配システムですが、フリードマンが提案してから50年以上たっても実現しません。それは既存の社会保障をすべて廃止するので、年金生活者や官僚機構が強く反対するからです。

でも日本の社会保障は行き詰まり、あと20年ぐらいで年金基金の積立はなくなって税金と同じになります。それなら最初から、税で分配すればいいのです。よい子のみなさんが大人になるころは、BIを真剣に考えるようになるでしょう。