橋やトンネルが放棄され始めた

山田 肇

朝日新聞に記事『老朽橋・トンネル、進む撤去 危険判定の340カ所中73カ所 財政難、補修見送り』が出ていた。笹子トンネル事故をきっかけに橋やトンネルの点検が進められたが、緊急措置が必要とされる最悪の「4判定」が付いた73カ所が撤去・撤去予定となった。財政難にあえぐ自治体が維持を見送ったためである、というのが要旨である。

同日に『橋の撤去案、戸惑う住民 「買い物も迂回」市と意見対立』も掲載された。和歌山県田辺市の「秋津橋」を撤去することについて、150メートル離れたところに別の橋があるから撤去したい田辺市と、利便性が落ちるという地区住民が対立している。

この件は行政事業レビュー公開プロセスでも議論の対象となった。今春、国土交通省で「道路事業(直轄・修繕等)」が議論された。これは国土交通省が直轄する国道を対象としたものだが、定期的に点検して「2判定」「3判定」の間に修繕することで「4判定」を未然に防ごうという予防保全の考え方で事業は進められている。

公開プロセスの結論は「事業内容の一部改善」となった。点検は5年に一度実施することになっているが橋やトンネルの状態によって点検期間を変えるべきではないか、点検にも費用が掛かるので、橋やトンネルの全寿命にわたる費用が予防保全によってどこまで削減できるか確認する必要がある、といった点が指摘された。

実は、維持管理の必要性の低い道路は放棄して構わない、というのが公開プロセスでの議論の前提であった。

道路には信号機が多く設置されているが、この維持管理も一部はやめてもよいのではないか、という議論もあった。2015年に警察庁で対象となった「災害に備えた道路交通環境の整備」がそれである。取りまとめの中に「今の方針でよいのか、更に増やすべきか、維持管理費も考慮し、減らすことも含め常に検討することが重要」とあるが、真意は「役に立たない信号機は廃止するのがよい」であった。

高度成長期から道路は整備され50年が過ぎ老朽化が始まっている。すべてを維持したいというのが住民の意見かもしれないが、予算に制限がある以上、放棄する道路も選別しなければならない。朝日新聞の記事は、実際にその動きが始まったことを示している。