7人に1人の子どもたちが「見えない貧困」に苦しむ
「日本では7人に1人の子どもが貧困状態にある」。こう聞いてすぐには実感が湧かないという方もいるのではないでしょうか。日本で相対的貧困状態にある17歳以下の子どもの割合は、2015年時点で13.9%となっています。
貧困と聞くと、アフリカなどの途上国で見られるような、食べ物や着る服を用意するのも困る「絶対的貧困」をイメージするかもしれません。今日食べるものさえままならず、栄養失調になっているような状況です。
日本をはじめとした先進国では、「相対的貧困」という貧困の指標が用いられます。「相対的貧困」とは、貧困ラインに満たない暮らしを強いられている状態のこと。貧困ラインに満たない暮らしとは、国民の可処分所得を高い人から低い人まで順番に並べた時に、ちょうど真ん中にくる値の半分以下になる水準未満で生活している状態のことを指します。
貧困ラインは「可処分所得」という、給料のうち「自由に使えるお金」を元に計算します。税金や社会保険料を差し引いて手元に残ったお金が「可処分所得」にあたります。
2012年では、親1人・子1人の世帯で約173万円が貧困ライン。この金額では特に都市部だと生活に余裕はなく、最低限の衣食住で精一杯となります。このように、衣食住をまかなうのにギリギリで、学習塾に通う、ちょっとした旅行に行くなど、社会の中で「普通」とされる機会を得られない状態を「相対的貧困」といいます。
相対的貧困は「見えづらい」のが特徴です。例えば、最近は服や靴が格安で手に入るブランドも多く、また、仕事が忙しく留守がちな親との連絡の生命線として、ほとんどの家庭で子どもはスマートフォンを所持しています。着ているものや持ち物は普通の家庭と変わりません。
そして、生活の厳しさを周囲に伝えることを憚る方も多くいらっしゃいます。結果として、周りからは貧困家庭であると見えないことも多いのです。これは日本の貧困問題の特徴でもあります。
ひとり親家庭の子どもたちの2人に1人が相対的貧困
背景の一つには、ひとり親家庭の置かれている厳しい経済状況があります。厚生労働省が2017年に出した「ひとり親家庭等の現状について」によると、ひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%となっており、ひとり親家庭の子どもたちの2人に1人が貧困状態にあります。
大人が2人以上いる家庭の相対的貧困率は10.7%。ひとり親家庭の相対的貧困率は、そうでない家庭の約5倍もの数値となっているのです。
母子家庭の約6割はワーキングプア。 働いても相対的貧困から抜け出せない現状
OECD(経済協力開発機構)の2008年の調査によると、ひとり親家庭の貧困率は仕事をしていない家庭で60%、仕事をしている家庭で58%となっています。働いても働いていなくても、貧困率がほとんど変わらないのです。
これは、一生懸命に働いているのに貧困から抜け出せない「ワーキングプア」という状態に陥っているといえます。ほとんどの国では、仕事をしているひとり親家庭の貧困率は10~25%程度。海外と比較しても、日本のひとり親家庭は厳しい状況に置かれているといえるのです。
厚生労働省が2017年に出した「国民生活基礎調査」によると、母子世帯のうち、45.1%が生活を「大変苦しい」と感じています。生活を「やや苦しい」と答えた人まで含めると、82.7%もの人が日々の生活に苦しんでいます。
日本では母子家庭の8割以上のお母さんは仕事をしています。しかし、半分以上が非正規雇用です。非正規雇用になると、長く働いてもなかなか給料が変わらないなど、福利厚生の面で不安定な状況に置かれているのです。
子どもの貧困がもたらす所得の損失は約42兆円
「そう言われても自分とは関係ないことだし……」と思われた方へ。いいえ、実は子どもの貧困問題をこのまま放っておくと、あなたの生活にも大きな影響があるのです。
日本財団 子どもの貧困対策チームは2015年に「子どもの貧困の社会的損失推計」の調査結果を発表しました。そこで明らかになったのは、低所得世帯で育った子どもは教育を受ける機会が少なくなってしまうということ。
世帯収入は学力と非常に高い相関関係にあり、学力の差は学歴の差として現れます。大学等進学率は全世帯平均が73.3%なのに対し、ひとり親家庭は41.6%という大きな格差が生まれています。
進学率が低くなると、非正規雇用や働きたくても働けない人の増加につながります。これはすなわち、その人達が働いて稼いだお金から税金や社会保険料を納める金額が減っていくのと同時に、生活保護などの公的支出が増えていくことを意味するのです。
子どもの貧困を放置すると、現在の0〜15歳児について、将来の所得の損失は総額で42兆9000億円、それによる財政収入の損失は15兆9000億円に達します。1年あたり、所得は約1兆円、財政収入は約3500億円の損失です。この社会的なコストは、あなたも含めた日本国民全体が分かち合うことになるのです。
さらに、生まれた家庭の経済格差は教育格差を生み、それが子どもの将来の所得格差につながります。こうして今の世代の貧困が次世代の貧困を生む「貧困の連鎖」が続いていくのです。
子どもの貧困がもたらす社会的損失の影響は非常に大きく、また、貧困が連鎖することによって、継続的に私たち一人一人に重くのしかかってくる社会課題であり続けます。決して他人事ではないのです。
文京区から全国へ!子どもの貧困解決モデルを広げる
「なんとかしたい!でも私に何ができるだろう?」そう思ったあなたへ。私たち一人一人はこれからどのようなアクションをとっていけばいいのでしょうか。
子どもの貧困という構造的な課題を解決していくために、先日「こども宅食」がキックオフしました。「こども宅食」は、文京区内に住む、18歳以下の子どもがいる、生活が苦しい家庭1,000世帯に定期的に食品を届けていくというもの。
食品を届けることをきっかけに、困っている家庭とコミュニケーションをとり、どんな支援が求められているのかを探り、同時に、適切な支援先との橋渡しをすることを目指します。つながりを活かして食品にとどまらない様々な支援を届けることや、虐待のリスクをできるだけ早く発見することも、大切なミッションとなっています。
まずは文京区で小さな成功事例を作り、ノウハウ公開や政策化により同じ仕組みを全国に広げることで、全国の子どもの貧困問題解決につなげていく。そんな未来を描いています。
経済的に厳しい状況にある人たちの生活を豊かにしていくことは、社会全体の将来の損失を減らすことにつながります。そして同時に「貧困の連鎖」を断ち切ることにつながっていく。
子どもたちにとっても、社会全体にとっても、明るい未来が待っているはずです。「こども宅食」のサポートを通じて、一緒に子どもの貧困問題解決に取り組んでみませんか?
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年7月24日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。