憲法学者には「自衛隊は軍隊である」ことを説明いただきたい

篠田 英朗

陸自サイトより(編集部)

このところ続けて憲法学者について書いているが、一度区切りをつけるために、最後に政策的な課題に結びつけた話をしたい。

以前に書いた「船田元・憲法改正推進本部本部長代行の憲法理解を批判する」という題名のブログ記事のコメント欄に、感情的なコメントを投稿してくる方いた。乱雑なタイプの投稿かと思い、私が粗い言葉で返信してしまったので、油を注いでしまったらしい。

この方にとっては、自衛隊は軍隊だ、という政府見解があることから、まず納得できないようであった。そこで政府答弁書のURLを教えたのだが、その際に、こういうやりとりは勘弁してほしい、という意思表示のつもりで粗野な言葉を付け加えてしまったら、怒りに火をつけてしまった。反省してお詫びする。

しかし、この「研究者」氏の背景にある問題は、意外と根が深いかもしれない。つまり、「自衛隊は軍隊ではない」、という「信仰」の根深さだ。あたかも憲法の文言や、どこかの法律に、「憲法は軍隊ではない」、と書かれていると、信じて疑っていないという風である。

上記の政府答弁にもあるように、「国際法上、一般的には、軍隊として取り扱われる」ということを、日本政府ですらはっきりと認めている。

この政府答弁書において、「通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」と言っている「通常の観念」が何を意味しているのか不明だ。が、まあ、日本社会で偏見を持って語られる際の通俗的な軍隊の観念、といったところか。「戦前が復活する」的な議論では、戦前のいびつな軍隊が「軍隊」の定義になってしまっているということだが、ガラパゴス理解である。

自衛隊は、「憲法上の戦力」ではないが、「国際法上の軍隊」である。

これは、私が『ほんとうの憲法』で説明していることでもある。日本国憲法は、戦前の大日本帝国軍のように死滅した19世紀国際法の国家の基本権概念などを振りかざして国際秩序に挑戦することはしない、国際法を遵守する、ということを宣言している。

憲法9条もそうだ。日本国憲法が保持を禁止しているのは「戦力」は「War potential」とされており、「軍隊(Military)」とは、異なる。自衛隊(Self-Defense Forces)は軍としてのForceだが、憲法上の「戦力」としてのForceではない。

だが憲法学者は、「自分は自衛隊は違憲だとは言わないが、自衛隊が合憲だということになるとコントロールできないので、とにかくアベ首相がいる限り何をするのもダメだ」、といった議論に傾注し、そもそも必要な概念の整理すらしてくれない。不親切だ。憲法学者が不親切だから、「戦力」「軍隊」といった基本概念に関する政府見解も全く国民に知らされないままなのではないか。

内閣法制局は「法律家共同体」なので絶対だ、という議論を、自分の政治的立場を補強する時だけつまみ食いし、しかし気が向かないときは隠ぺいしたりするような態度は、よくない。

もし憲法学者が「内閣法制局の見解が絶対的な憲法解釈だ」というのであれば、「自衛隊は軍隊である」、ということを、もっと宣伝しておいていただきたい。

ほんとうの憲法: 戦後日本憲法学批判 (ちくま新書 1267)
篠田 英朗
筑摩書房
2017-07-05

編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年8月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。