ソニー創業者・盛田昭夫が56年前に予測していた日本の未来

城 繁幸

盛田昭夫氏(公式サイトより引用:編集部)

今週のメルマガの前半部の紹介です。
先週、お仕事で文藝春秋の56年前の記事に目を通したのですが、それが想像以上に本質をついたものであり、なおかつ半世紀経った現在の日本にも当てはまる内容で驚かされました(まあ悪く言えばそれだけ日本が進歩してないということですが……)。

【参考リンク】ソニー創業者・盛田昭夫が56年前に書いた「新・サラリーマンのすすめ」

伝説の創業者は終身雇用の本質をどう読み、未来に何を見出していたのでしょうか。個人のキャリアを考える上でも示唆に富む内容なので取り上げておきましょう。

盛田昭夫がすばり見抜いていた日本社会の特徴

まず、なんといっても目を引くのは、1961年の学生の安定志向ぶりです。

いまは就職の売手相場である。証券会社に入社を断わりにきた連中は、きっと二股も三股もかけていたにちがいない。連中は売手の権利を行使してサラリーの悪くなりそうな会社を敬遠し、少しよさそうなところに鞍替えしたわけなのだろう。(中略)つまるところは、とるにもたらぬような気分的な理由で、きめてしまう。たとえば「寄らば大樹の蔭」というわけで、できるだけ大会社をえらぶのだ。

最近は学生の大企業志向や終身雇用志向が話題となり「草食化でリスクを取らなくなったのだ」とかなんとか言われることが多いですが、今の70代もまんま同じようなこと言われていたわけですね。余談ですが、筆者は最近、実は日本人というのはずっと一貫して「リスクを回避する」という生き方をしてきたんじゃないか、という気がしています。

というと「戦国時代や大戦中はどうなんだ」と言う人がいそうですが、室町幕府が崩壊して無政府状態になったら誰だって生き残るために武装するしかないし、戦前みたいなガチガチのムラ社会型全体主義の社会で「戦争反対!」なんて叫ぶ方がリスクなわけです。戦後は「大きな組織に入ること」がもっとも低リスクな生き方だったというだけの話でしょう。まあそれももうすぐ終わりそうですが。

それから、氏の日米労働市場の違いに関する考察も秀逸です。「米国は給与体系が職務ベースで決まる職務給で、流動的な労働市場から人材を適時調達してあたかもブロックのように組織をくみ上げる」というのはその通りです。流動的で職務に関して賃金が支払われるため契約関係が明確であり、そこに“ブラック企業”的な要素など入り込む余地はありません。

かたや、日本は「本人が刑法にふれる犯罪でも犯さないかぎり、クビにならない」社会であり、給与も年功序列の属人給です。「〇〇の仕事をやるから給料〇〇万円」という契約ではなく、人生を預けて何でもする代わりに面倒を見てもらうという一種の身分制度みたいなものですね。ブラック企業的なものは、すべてこの明文化されていない空気みたいな身分制度から発生しているわけです。過労死とかブラック企業を無くしたかったら解雇規制緩和して労働市場を流動化する以外にありません。

さて、日米のギャップを指摘したうえで、氏は終身雇用制度の深刻な欠陥についても言及しています。仕事内容で就職先を選んだわけではない以上、若手の頃は一生懸命頑張っても、中高年になり出世の白黒が見えてきたころからすっかりモチベーションを失い、ただ無難に日々を暮らすサラリーマンに落ち着いてしまう、という点です。

これはまさに日本企業が直面する人事面での最大の課題でもあります。90年代までも幹部候補選抜が終了して「出世の芽が無くなってやる気のなくなった40代以上」はいるにはいましたけどそこまで多くは無くて「〇〇くんもしょうがないなあアッハッハ」で笑って済ませられるレベルでした。でも日本企業は高齢化がどんどん進んでいまや大手はどこも平均年齢は40代。しかも組織のフラット化で過半数がヒラの状態です。そう、「やる気のない中高年」はいまや社内の最大勢力と言っても過言ではないのです。

で、彼らは別に生産性上げるでもなく足で稼ぐでもなく「ホワイトカラーエグゼンプション反対!金銭解雇反対!」とかいって日がな一日SNSでダベってるのようなどうしようもないのが多いわけです。そういう意味では、まだまだ働き盛りの40~50代をそうやってデッドストック化しているという意味で、やる気のない中高年を量産してしまう終身雇用制度は社会全体に危機をもたらしているとも言えるでしょう。

一方で、盛田氏はそうした終身雇用の欠点は認めつつも、そうした弱みをいかに長所に転じるべきかと言う処方箋もあわせて提示しています。

日本はポテンシャルベースで採用されたデコボコな人材が入社してきます。実際に職場に配属してみないと何がどれだけできるのかは誰にもわかりませんし、本人も何がやりたいのか空っぽのままです。これではアメリカのようにブロック型組織を組み立てることは難しいように思えます。

でも、日本には、雑多な形の石をくみ上げて強固な土台となす“石垣”という技術があります。だから同じことを人でやればいい。上司が部下の適材適所を判断し、状況に応じて適時仕事を割り振ることで、ブロックよりも強固な石垣型組織を作ればいい、そうすればゆくゆくは自分の仕事に誇りを持つ本当のプロフェッショナルにも進化してくれるだろう、というのが、氏の処方箋です。

これは実際に、その後の日本企業におけるマネジメントの基本となりました。配属されるまで実際に何を担当することになるのかよく分からん新卒一括採用、突然別部門に異動になるジョブローテーションetc…… そういう曖昧なキャリアパスを通じて引き出しの多いゼネラリストを育て、長く組織を支える人材を育てることがその後の日本企業において一般的なアプローチになり、いまに至るわけです。

「石の上にも三年。まずは組織に入って働く中で天職を見つけろ」的な価値観はこうして形成されていったわけですね。

以降、
盛田氏の誤算
ポスト“石垣時代”の新サラリーマン

※詳細はメルマガにて(夜間飛行)

Q:「内々定ブルーです。処方箋はありますか?」
→A:「普通の人は社会人になった後で志望先がガラリと変わるもんです」

Q:「終身雇用が形がい化する中、社内労組の意義とは何でしょうか?」
→A:「終身雇用のためにガマンしてきた諸々をガチンコで交渉することになるでしょう」

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残業規制で所得最大8.5兆円減の衝撃

でも時間じゃなく成果で支払う制度を断っちゃったからしょうがないですね。みんなもっともっと倹約しませう。欲しがりません勝つまでは。

良いリフレ派→アベノミクス再起動に労働市場流動化が不可欠
悪いリフレ派→か、株価上がってるから失敗してないし

「実は労働市場流動化が鍵なんですよ」と後出しで言いだす分にはウェルカムです。

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年8月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。