目に見えない「第5戦線」相次ぐ米艦衝突事故にサイバー攻撃?

高 永喆

北朝鮮の脅威といえば核兵器や弾道ミサイルの開発に目が行きがちだが、サイバー攻撃の能力は世界でも屈指の高さと言っていい。核実験やミサイル発射など目に見える脅威の裏で、北朝鮮はきょうも目に見えないサイバー戦争を仕掛けている。

今年5月、世界各地で身代金要求型のウイルスによる大規模なサイバー攻撃があった。金融機関への攻撃では多額の現金を奪った。仕掛けたのは北朝鮮だ。新手の外貨獲得策として海外でレストラン事業などを展開しているが、最近はハッキングを重視している。その資金が核兵器やミサイルの開発にあてられている。

最近、相次ぐ米軍艦衝突事故もイスラエルを拠点とするサイバーセキュリティ-企業CEOグリック氏は中・朝のサイバー攻撃を受け米軍艦がGPS位置測定を誤った可能性を示した。

北朝鮮のサイバー体制は1980年代に始まった。
幼い頃から優秀な子どもには英才教育やパソコン習熟の機会を与え、軍部に入ってIT部門に就けば昇進が早く、給与も高く、高級マンションも提供される。それだけに競争も激しい。人民武力省や朝鮮人民軍のサイバー部門には計7000人が従事している。これは約2900人の韓国の2倍以上だ。北朝鮮がサイバーを主戦場と位置付けている証しだ。

サイバー戦争は、①不正侵入やなりすまし、プログラム破壊などのハッキング②ブログやツイッターなどソーシャルメディアを通じた世論操作や偽情報の拡散を行う情報心理戦③第三者のパソコンを通じて標的のネットワークを機能停止させる分散型サービス拒否(DDOS)−−−に大きく分類できる。北朝鮮はとくにハッキングと情報心理戦が得意だ。

2002年の韓国大統領選では親北朝鮮の盧武鉉氏が当選したが、韓国のベテラン情報専門家の分析では北朝鮮のサイバー部隊が中国を拠点にインターネットへの組織的な書き込みを行い、盧氏の支援工作を実施したとみられている。

昨年の米大統領選では既存の新聞や雑誌媒体よりもフェイスブックやツイッターなどニューメディアが影響力を持った。北朝鮮は若者層を標的とする情報心理戦を巧みに行っている。00年代後半以降、韓国の政府機関や軍、メディア、銀行などを標的とする大規模なサイバー攻撃を相次いで行い、韓国社会全体を混乱させてきた。

北朝鮮にとっては中古品の兵器や装備を更新して戦力を強化するよりも低コストで利益を最大化させることができる。経済的に脆弱な北朝鮮には理にかなった軍事戦略だ。

北朝鮮のサイバー戦争は日本にも向かっている。世論誘導や心理戦では、韓国のネット社会を舞台に慰安婦問題や竹島問題で反日感情をあおり、分断を図っている疑いがある。日本の政府機関や防衛産業は北朝鮮に限らず標的となっている。北朝鮮は社会を混乱に陥れるサイバー戦争が実際の武力攻撃と同じダメージを与える効果があると考えている。

米国はサイバー空間を「第5の戦場」と位置付けている。オバマ前政権は北朝鮮のミサイル発射を妨害する「発射の残骸(レフト・オブ・ローンチ)」作戦を実施し、発射を失敗させた事例もあるという。北朝鮮のサイバー攻撃による資金獲得をどう断つかは、国際社会が取り組むべき新たな課題だろう。

(拓殖大学客員研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省北韓分析官)

(編集部より:6日15時追記)※本稿は筆者が毎日新聞9月5日付朝刊に寄稿したコラムに一部加筆したものです。

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高 永喆
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2017-03-25