電波オークションをめぐる誤解と期待

山田 肇

産経ニュースが「電波オークション 政府が導入検討」と報じた。電波オークションはOECD加盟国をはじめ広く各国で実施されている制度であり、導入の方向に動き出したのは正しい。

記事にあるように、2012年に民主党政権が導入に動いたが自民党の反対などで廃案となった。当時導入しておけば黄金周波数と呼ばれ経済的価値が高い700/900メガヘルツ帯も対象になったはずだ。これらの周波数はすでに比較審査方式で配分済みであり、残りの周波数に対する電波オークションでは収入はあまり期待できないが、モバイルの時代である今だからこそ公平に透明に電波が配分されるのには価値がある。

上念司氏が「電波は国民の共有財産だ。携帯電話事業者に比べ、放送局の電波使用料は低い額に設定されている」は指摘していると記事にあった。電波利用料制度が電波オークション導入への期待の文脈で語られたとすると誤解である。

電波オークションは新たな周波数を誰が使うか、入札によって決める制度である。既存の免許人が持つ周波数をオークションにかけたら、事業の存亡がかかる既存免許人は青天井で入札せざるを得ない。そんな既存免許人いじめの制度は世界中どこでも実施されていない。

新規の免許を配分する電波オークションと既存免許人から毎年利用料を徴収する電波利用料制度は両立しうる。電波利用料のアンバランスを問題にするならば、その部分だけ直せば済む。

米国ではインセンティブオークションが実施されている。これは、既存の免許人であるテレビ局に電波の返上を求め、それを携帯電話事業者が入札するものだ。携帯電話事業者からの電波オークション収入の一部は、電波を返上するテレビ局に配分される。配分金を与えることで返上への意欲(インセンティブ)を高めるので、インセンティブオークションと呼ばれるわけだ。

電波オークションは各国で実施済みの制度であり、世界標準である。やっとその方向に動き出すことを歓迎する。テレビは電波によるだけでなくケーブルでもネットでも配信できるから、インセンティブオークションも制度に入れるのがよい。ただし、電波利用料のアンバランスを同時に議論するのは間違いで、そのことで政治的な混乱が生じるのは好ましくない。