「独身制」こそ聖職者の性犯罪の元凶

長谷川 良

ローマ・カトリック教会関連施設で聖職者の未成年者への性的虐待が多発しているが、バチカン法王庁は、「聖職者の独身制と性犯罪の増加とは関係がない」という立場を強調してきた。しかし、オーストラリアの2人の学者が、「聖職者の性犯罪とその独身制とは密接な関係がある」と指摘した研究書をこのほど発表し、注目を集めている。

▲オーストリアのローマ・カトリック教会の精神的支柱、シュテファン大聖堂内(2012年4月26日、ウィーンで撮影)

▲オーストリアのローマ・カトリック教会の精神的支柱、シュテファン大聖堂内(2012年4月26日、ウィーンで撮影)

384頁に及ぶ研究書はペーター・ウィルキンソン氏とデスモンド・ケヒル氏の労作だ。2人は元神父だ。教会の組織、内部事情に通じている両氏は、「世界のカトリック教会には、聖職者を性犯罪に走らせる組織的欠陥がある」と考え、個々のケースを調査し、各ケースに共通する背景、状況を検証していったという。

オーストラリア教会の聖職者の性犯罪調査王立委員会は今年初めに暫定報告を公表したが、それによると、オーストラリア教会で1950年から2010年の間、少なくとも7%の聖職者が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで1880人の聖職者の名前が挙げられている。すなわち、100人の神父がいたらそのうち7人が未成年者への性的虐待を犯しているという衝撃的な内容だった(「豪教会聖職者の『性犯罪』の衝撃」2017年2月9日参考)。

2人の学者は聖職者による過去の性犯罪を検証し、関連の研究書やレポートを参考に研究を進めていった。ちなみに、ロイヤルメルボルン工科大学=RMIT大学は、「聖職者の性犯罪の背景分析として、文化的、歴史的、組織的、社会的、心理学的、神学的要素を包括的に検証している」と、研究書を高く評価している。

2人の学者は聖職者の性犯罪の主因として2点を挙げている。
①聖職者が結婚できる教会では性犯罪は少ない一方、聖職者の独身制を強いるカトリック教会では性的に未熟な若い神父たちが自分より幼い未成年者に性的犯行に走るケースが多い。すなわち、聖職者の性犯罪とその独身制には密接な関連がある。

②カトリック教会が経営する孤児院や養護施設などが性犯罪を誘発する組織的背景となっている。カトリック教会は世界約9800カ所に孤児院、養護施設などを経営しているが、それらの施設に保護される未成年者は聖職者の性犯罪の犠牲となる危険性が高い。経営側の教会はその点について余り自覚していない。

上記の2点は新しい事実ではない。多くのメディアや教会関係者が指摘してきた内容だが、今回は膨大な資料を分析、検証したうえでの結論だけに説得力がある。
例えば、オーストリアのローマ・カトリック教会最高指導者シェーンボルン枢機卿は、「性犯罪はカトリック教会の聖職者だけが犯す犯罪ではない。その件数自体、他の社会層のそれよりも少ない」と弁明したことがある。同枢機卿の見解が教会のこれまでの代表的な立場だった。

なお、前オーストラリア教会最高指導者ジョージ・ペル枢機卿(バチカンの枢機卿会議メンバー)は同国の検察庁から未成年者への性的虐待容疑で起訴され、現在、公判を受ける身だ。

カトリック教会の独身制については、このコラムでも何度も言及してきた。南米教会出身のフランシスコ法王は前法王べネディクト16世と同様、「独身制は神の祝福だ」と強調する一方、「聖職者の独身制は信仰(教義)問題ではない」と認めている。換言すれば、独身制は聖書に基づくものではなく、あくまでも教会が決めた規約に過ぎないわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。