社労士に聞いた!自殺者が減らなければ全く意味がない

2017年10月08日 06:00

写真は川部氏。『今日ドキッ!』(HBC北海道放送)

電通に過労自殺が労災認定されて1年が経過した。大手広告代理店での事件であったことや、亡くなったのは東大卒で容姿端麗の新人。家族が公表に踏み切ったことが起因となり、メディアでも大きく扱われた。

今回は、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP(R)、1級FP技能士)として活動している、川部紀子(以下、川部氏)に、労災に関する話を伺った。近著に『家計簿不要!お金がめぐる財布の使い方』(永岡書店)がある。

1998年ドラフト会議問題とは

――電通問題以降、ブラック企業の文字が新聞の紙面を飾らない日はない。元々、ブラック企業とは反社会的団体との関係性が深く、違法行為をおこなう会社のことを指していた。最近では、長時間労働を強制し低賃金な企業を主に指すようになった。

「時代が昭和のころ、自殺が労災認定を受けることはありませんでした。潮目が変わったのは1999年です。『精神障害・自殺の労災か否かの判断指針』が策定され、うつ病による過労自殺も労災として位置づけられることになりました。当時、プロ野球のスカウト三輪田勝利氏(オリックス)の事件をご存知でしょうか。」(川部氏)

――三輪田氏は1973年に現役引退後、上田監督の勧めもありスカウトへ転身する。三輪田氏の目利きは球界関係者の間では有名だった。全国的に無名だったイチロー(愛工大名電)を発掘し、打撃センスを見抜き野手として入団させている。1998年、新垣渚(沖縄水産)は松坂大輔(横浜)と並びドラフトの目玉とされていた。

ドラフトではオリックスと福岡ダイエーが競合。抽選によりオリックスが交渉権を獲得する。しかし新垣は大学進学を宣言しオリックスとの接触を避けた。板挟みになった三輪田氏は精神的に追い込まれ、1998年11月27日に那覇市内で投身自殺した。これは、「1998年ドラフト会議問題」とも言われている。

「労働省と神戸東労基署が自殺を労災認定しました。自殺が労災と認められた第1号でした。メディアが世の中を大きく動かした事件といってもいいかもしれません。『労災認定』という点においては、この事件は大きな意味があったように思います。しかし、自殺が労災認定されるケースは起こり続けています。」(川部氏)

「自殺が労災認定されやすくなったから『良かった』とはなりません。過労による自殺者が減ることに、つながらなければまったく意味がありません。」(同)

ゼリア新薬工業のケースとは

――最近、話題になった事件としては、ゼリア新薬工業のケースがある。同社に勤務していた男性社員が、新入社員研修に過去のいじめ体験を告白させられ、直後の2013年5月に自殺したものである。2015年に労災認定を受けている。両親は8月8日、ゼリア新薬と研修会社の講師に対して1億円の訴訟を提起している。

最近は、このケースにあるような、過去のトラウマを思い出させてショック療法を与える意識改革のニーズが高い。参加者にダメ出しをして、どうすれば成果が挙げられるようになるかなどの棚卸しをする。中央労基署によれば「吃音」「過去のいじめ」が話題になったとされている。かなりのショックを与えたことが容易に推測できる。

最後に肯定的なムーブメントを醸成して「頑張ったな」で終わるが、効果は疑問だ。このようなケースに限らず、未熟な講師によるトラブルは少なくない。ある大手EAPのメンタルヘルス研修では、うつ病の社員に対して「もっと頑張れ!」「会社に来れないのはクセだ!」など、講師が罵声を浴びせるものがある。問題にならないほが不思議だ。

「長時間労働が精神疾患の原因の1つになるのは今も昔も変わりませんが、自殺の原因に繋がる理由が、以前はプレッシャーによるものが多かったのに、今はハラスメントによるものが増えている印象です。国も対策に取組んでいますが、ハラスメントは、耐性も人それぞれで、指針も曖昧になりがちです。」(川部氏)

「助けたくても、どのように助けるかがとても難しい問題なのです。時間をかけて助けを待っていては、心と身体が蝕まれていくばかりです。自分の身は自分で守らなくてはいけないという気持ちで会社と付き合うべきでしょう。」(同)

情報を収集して武装しておくこと

――拙著『007に学ぶ仕事術』で触れているが「007黄金銃を持つ男」の中に次のシーンがある。消息を絶ち殉職したと思われたボンドはロンドンに現れる。しかしMを暗殺しようとする。消息を絶っている間に捕らわれの身となりLGBによって洗脳されていたのである。回復したボンドに「成功すれば汚名返上、失敗すれば死」という指示が与えられる。

007は映画の世界だが、ビジネスパーソンはスパイではないから、ボンドのように命をかけて戦う必要性はない。しかし、社内にも理不尽な要求をして、ハシゴを外す人がいるかも知れない。待っていても助けはやって来ない。自分自身が現状をきっちりと判断すること、さらに、多くの情報を収集して武装しておきたいものである。

今回は、川部紀子氏に、社労士の立場で話を伺った。謹んで御礼申し上げたい。

尾藤克之
コラムニスト

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