若者はなぜ自民党を支持するのか

池田 信夫

今回の総選挙の世論調査で、若者の自民党支持率が高い。たとえば毎日新聞の世論調査では、20代以下の自民党支持率が4割弱で、30代以上は2割台だ。それを「保守化」という人がいるが、逆である。彼らは新聞を読まないので「反安倍」の刷り込みを受けていないだけだ。

今の国際情勢で「安保反対」を唱える野党を支持する理由は見当たらないし、若者にとって重要な雇用も改善している。自民党はこれを「アベノミクスで雇用が改善した」とアピールしている。確かに完全失業率は3%を下回って「完全雇用」といっていい水準だが、その原因は何だろうか。

まず実質成長率でみると安倍政権の平均は1.3%で、民主党政権の1.6%を下回り、インフレ率もまだ0.7%。少なくともマクロ統計には、アベノミクスの効果は見当たらない。では雇用が改善しているのはなぜか。その短い答は、循環的な現象だということだ。厚労省の統計によると、次の図のように完全失業率は民主党政権の時代の2009年に5%でピークを打ち、その後ほぼ単調に下がっている。有効求人倍率も、安倍政権で加速も減速もしていない。

もう一つの原因は、非正規雇用の増加である。失業率や求人倍率は「人数」の統計だから、1人の正社員が2人のパート・アルバイトに代替されると改善する。2009年以降の景気回復局面で、正社員が退職してパートとして再雇用され、女性の労働参加率が上がったので、人数でみると雇用は改善したが、次の図のように総労働時間はやや減っている。

つまり「終身雇用」がゆるやかに終わり、高すぎた賃金が労働生産性に見合った水準(時給ベース)に下がって雇用が増えたのだ。これは「労働サービスの価格(賃金)が下がると労働需要(雇用)が増える」という当たり前の現象である。実証研究でも、正社員のサラリーは上がっていないが、パートの時給は上がっている。

これは日本の労働市場が柔軟になり、労働需給が均衡する自然失業率が下がったことを示す。それ自体は歓迎すべきことだが、アベノミクスとは関係なく、現状は自然失業率の均衡状態に近いので、これ以上「景気対策」を続けるべきではない。

好景気が持続しているのは「デフレ脱却」とは関係なく、安倍政権が拡張的な財政政策(日銀の資産買い入れ)をとり続けているからだ。その負担は政府債務として若者に転嫁されるが、彼らがゆるやかに貧しくなる道を選ぶのなら、それも一つの選択である。今回の総選挙をみると、それ以外の選択肢はないだろう。