フランコ独裁政治から民主化に移行した時に活躍した当時の政治家は今回のカタルーニャの行動を「州政府によるクーデター」と位置づけている。1978年に発布されたスペイン憲法を冒涜して独立しようとする姿勢は正に「クーデター」そのものだというのである。
スペイン政府はカタルーニャ州政府が独立宣言をすれば、直ちに憲法155条を適用してカタルーニャ自治州の機能停止という手段に出るというのが大方の見方だ。
その独立宣言をプッチェモン州知事が10月10日のカタルーニャ議会で行った。しかし、その実施を数週間中断するとした。その間にスペイン政府と対話をする、或いはEU委員会の仲介を期待するという下駄を預けた形にしたのである。
スペイン政府は独立宣言は違憲であるという姿勢を崩していない。そして、それを知りながら独立宣言をした州政府との交渉の余地はないとしている。また、EU委員会はスペインの内政には関与しないとしており、またカタルーニャの独立は支持しないという姿勢を明確にしている。
今後の成り行きが注目される中で、カタルーニャ州の経済を不安にさせる動きがこの1週間余りの期間に起きている。
カタルーニャを代表する企業が次々と登記上の本社を州外に移しているのである。今年に入ってカタルーニャから企業が撤退したり、登記上の本社を同州以外の都市に移転させたりしている現象が起きていた。それを加速化させたのは10月1日の住民投票であった。その結果を基に州政府が独立宣言をするという可能性が強まったからであった。
独立すれば、カタルーニャはEUから離脱させられることになり、ユーロ通貨も流通できなくなる。EUの単一市場圏へのアクセスも出来なくなる。EU中央銀行からの支援や、EU経済発展の為の助成金なども受けられなくなる。更に、法人税や社会保障費の負担などがどのようになるのか全く不明である。このような状態に置かれるのをカタルーニャの企業は避けたいという判断からの本社の登記上の移転である。
住民投票の結果を踏まえて、即座に登記上の本社移転を決めたのはバイオ医学の分野ではスペインでトップ企業のひとつOryzonであった。マドリードに本社の移転を決めた。
それに続いて注目を集めたのはカタルーニャの2大銀行のひとつSabadellが本社をバレンシア州のアリカンテに移したことである。それに続いてもう一方の大手Caixabankも本社をバレンシアに移した。
また、州外への移転を容易にする為に、スペイン政府は10月6日の閣僚会議で州外への移転に株主総会での承認は必要なく、取締役会での承認だけで移転ができるという法改正を決めた。これまで移転に必要とされていた株主総会での承認となると時間がかかるからである。
特に、カタルーニャの2大銀行が州外に本社を移転するというのはカタルーニャ州政府にとって強い打撃と成なる。しかも、Caixabankはスペインの3大銀行のひとつでもあり、その経済的重みはカタルーニャにとって重大である。
この2大銀行の本社移転の決定に州政府は慌てたようで、ジュンケラス副州知事が両銀行のそれぞれ頭取と会見した。カタルーニャに留まってもらうように説得に努めたようであるが無駄に終わった。2大銀行にとって、カタルーニャがEUの圏外に置かれるようになるということはEU中央銀行との関係も断たれることになり、両行の孤立を意味することになる。
この2行の移転の決断は将来誕生するかもしれないカタルーニャ共和国にとって税収面で重大な損失となる。
SabadellとCaixabankに続いてスペインを代表する35社の株価銘柄(IBEX 35)の内で、カタルーニャに本社を置く企業8社がカタルーニャから移転を完了、あと1社が移転寸前である。
日本でも馴染みのあるカバ(Cava)の世界トップ企業Freixenetも本社を移転させる検討に入っていることが明らかにされた。また、そのライバル企業Codorniuも移転する構えを見せている。特に、Codorniuはカタルーニャの独立を支持していた企業であるが、今回のクーデターともいえる州政府の独立するための経済的波及を無視した行動には納得できないとした。
カタルーニャに進出している外国企業は5000社以上あるが、どの企業もカタルーニャがEU加盟のスペインの中に存在しているというのが進出した理由であった。カタルーニャがEU圏外に置かれるようになれば、投資を続ける意味はなくなるとしている。
カタルーニャに進出している外国企業の内訳を見るとフランス25%、ドイツ19%、イタリア13%、米国14%、オランダ7%、日本5%、英国5%などとなっている。
日本からの進出企業を代表する日産バルセロナはスペインの大手企業と異なり、ヨーロッパの日産グループにおける戦略にも依存する。日産は4500人の従業員を抱え、年間10万5000台生産している。現在、同社の見解は「州政府が外国から投資するに価値ある競争力を維持できるように努めてくれることを願っている」という段階に留めているという。しかし、フォルクスワーゲンの系列自動車メーカーSEATは独立の暁には本社移転もありうることを表明している。
バルセロナはスペインを訪れる外国からの観光者が最も多く訪問するところであるが、最近バルセロナのホテルでも予約のキャンセルが目立つようになっているそうだ。カタルーニャのホテル業界ではこれから年末まで予約が35%まで減る可能性もあると見て懸念しているという。
カタルーニャ産品の不買運動が既にネット上で起きている。出汁などの生産ではスペインでトップ企業Gallina Blancaがその対象にされている。それ以外にココアを代表するCacaolatも標的にされている。
カタルーニャ産品がスペインの他の地方に販売されている割合は商業サービス35%、工業製品41%、農産物45%となっており、個々に見ると食品の場合は生産品の57%がスペインの他の地方に販売されている。薬品は56%、紙製品60%、書籍55%と言った割合になっている。即ち、スペインでカタルーニャ製品に対して不買い運動が起きれば、そのメーカーにとって深刻な問題になる。そして、独立国となれば、EUに加盟していないということで関税が適用されることになる。カタルーニャ製品のスペインでの販売は更に困難になる。
また、雇用面においてもスペインの他の地方との取引に依存している雇用率はカタルーニャの全体の27%になるという。この双方の取引が下降すれば、カタルーニャで雇用率が悪化することは明白である。
現在のカタルーニャ州政府はカタルーニャのブルジョア層が支持して誕生した歴史ある右派政党に左派共和党が連携した内閣だ。政治イデオロギーは右派と左派で共通するものはない。唯一、共通しているのはカタルーニャの独立ということだけである。この2政党では過半数の議席に及ばないとして、過激左派の議席を借りている。このような構成になっている州政府ではプッチェモン州知事は右派政党出身であるが、左派共和党と過激左派の圧力の前に操り人形のようになっているのが現状である。