無自覚のうちに食べ物を奪う「お客様本位」という錯覚

尾藤 克之

『視点・論点』(NHK)。2017年02月02日放送より

あなたは食べ物を無自覚のうちに奪い取っている。あとで食べようと思い冷蔵庫に保冷しても、無自覚のうちに賞味期限は過ぎていく。そして、奪い取った食べ物は無自覚のうちに廃棄される。国連食糧農業機関(FAO)の調査によれば、世界では約8億1500万人に充分な食料が行き渡っていないことが明らかになっている。

そして、毎年、食用に生産されている食料の3分の1に該当する13億トンが廃棄される。いま、「食品ロス」(食べられるはずの食品が廃棄されること)の問題がクローズアップされている。消費者は期限を1日でも過ぎた食品は廃棄し、小売店も期限前に商品を撤去する。その結果、日本は、「食品ロス」大国に変貌を遂げた。

今回、話を聞くのは、食品ロス問題専門家の、井出/留美(以下、井出氏)。Yahoo! News個人のオーサーとしても活動をしている。メディア出演実績も豊富で、『視点・論点』(NHK)、『ニュースウォッチ9』(NHK)、『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京)などがある。日本を代表する「食品ロス問題」の専門家として知られている。

買いすぎに気がつかない消費者

――買うという行為を問い直すにあたっては、当然、買う人の姿勢だけでなく、売る人の姿勢も深く関わってくることは言うまでもない。

「『三方よし』という言葉があります。近江商人の経営理念を表したもので、『売手よし』『買手よし』『世間よし』という意味です。『三方よし』の考え方には、自分さえよければいいとするのではなく、相手も、そして社会もよいことを願う、という経営理念は、旧財閥が残した『遺訓』(家訓)にも見ることができます。」(井出氏)

「たとえば、『三井家憲=多くをむさぼると紛糾のもととなる』『下村家(大丸)家訓=絶対に客をだましてはならぬ。正直律儀、正義をもって取引すべし』『住友家家訓=職務に由り自己の利益を図るべからず』などがあげられます。」(同)

――江戸時代(元禄)は、商人が台頭し経済活動が活発化した。特に豊富な資金力を持つ商人が「我が世の春」を謳歌した時代でもある。しかし、1699年(元禄12年)に台風による自然被害が発生し全国的に被害が拡大、江戸では米不足による物価が急騰し庶民の暮らしは困窮する。出典:『日本の自然災害(国会資料編纂会)』

「彼ら商人も、最初からこの重要性に気づいていたわけではなく、きっかけは、この自然災害にあったと言われています。これまで、自己本位なやり方で莫大な利益を得ていた商人たちは、次々と消えてしまいました。そこで、商人たちは、お客様を大切にする『お客本位』の考え方が、商売の基本であると考えたようです。」(井出氏)

「『三方よし』こそが、自分たちにとっても利となる商売の基本であり、社会に貢献できる道だと自覚するに至り、この経営理念は広まっていきました。」(同)

「お客様本位」とは何なのか?

――以前、破綻したある百貨店の食料品売場は閑散としていた。お客様が居ないのに惣菜が山のように積まれていく。夕方になると、来店することを見越して新しい惣菜が所狭しと積まれていった。あの惣菜はその後どうなったのだろうか。『フード・マイレージ』(中田哲也著/日本評論社)に次のようなくだりがある。

「おにぎりを買うために、どうして24時間こうこうと蛍光灯の輝くコンビニが必要なのだろうか。消費者は食べたいときに好物の『梅』おにぎりが必ずないとだめ、『おかか』や『昆布』では我慢できないという。 ~中略~ そのような『消費者ニーズ』は、本当に尊重すべきものであろうか」。

「英国のあるスーパーでは、店内に『買い過ぎていませんか?』と、お客に買い過ぎを諭す趣旨のポスターが貼られていたそうです。売り手にしてみれば、客が買った商品を捨てようが何しようが、とにかくたくさん買ってくれれば店が儲かるわけですが、このお店はそうは考えなかったということです。」(井出氏)

「何をすることが『買手よし』なのか、消費者の飽くなき欲望に応え続けることが本当に『お客様本位』なのか、問われるときが来ているのだと思います。」(同)

結果的に、消費者は知らずに、廃棄のコストを負担させられることになる。そして、「食品ロス」の構造にメスを入れたのが本書になる。過去の文献整理からはじまり、関係各所への取材などから浮かび上がる驚きの事実が明らかにされている。

参考書籍
賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)

尾藤克之
コラムニスト

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