地方創生は東京から:大江戸B級文化ミュージアムを問い直す --- 酒井 峻一

寄稿

東京の繁華街を歩いていると、混雑や交通機関の複雑さに戸惑ったり、買い物に夢中になっている外国人観光客をよく見かけます。初めての訪日日程の中で東京だけを訪れる人は、それだけで日本をある程度知り、再び訪れたいと思うでしょうか。これを少し改善する政策がここにあります。

申し遅れました、私、酒井峻一といいます。昨年『高校生からわかる社会科学の基礎知識』という社会科学の入門書を商業出版した者です。社会の考察に長ける私は、このたび日本の文化・観光・教育・経済・外交・街づくりの振興につながる案を練りました。

なお本案は数年前にアゴラに投稿した「大江戸B級文化ミュージアムを作ろう」が元になっており、今回はクラウドファンディングとともに本気の実現を目指すべく、ここに投稿いたしました。こちらを通じてご協力いただければと思います。

さて、私は歴史と文化財が好きでおもに首都圏の博物館や美術館をいくつも訪れてきました。こうした施設で来場者は、教科書にも掲載されている絵画や、ガラス越しに有名人の高尚な作品を静かに眺めるものです。このように、大和絵、宗教画、出土品、刀剣など来場者にとって一方的に見る対象に止まりやすい時代のエリートによる作品群を、ここでは「A級文化」と呼ぶことにします。

私の考えでは日本はA級文化とは対照的な性質がある「B級文化(≒庶民文化)」も充実しています。具体的には、将棋、折り紙、盆栽、箱庭、錦鯉、紙切り、けん玉、飴細工などがあてはまります。ここでは誰もが簡単に文化の担い手になれ、将棋の対局、折り紙の教示、鯉の継承といった形で人と人との間に交流が必然的に生まれるという長所があります。

ところが現在、B級文化の施設は将棋会館や盆栽美術館といった形で日本各地に個別に点在しているため、短期日程の訪日外国人観光客が訪れるのは不便です。さらに既存の施設は初心者には難しかったり、切り絵やけん玉などの実演を常設形式で見れなかったりするため、それらを踏まえた総合施設が必要です。A級文化には国立博物館という総合施設があるのならB級文化にも総合施設があってもよい、というのが私の意見です。

そのような施設があれば、仮に盆栽だけを目的に訪れたとしても、将棋やけん玉といった他の文化に出会い、その魅力に目覚めるかもしれません。あるいは錦鯉に興味を抱いた人は、その後、鯉の名所や各地の養鯉場に足を運ぶといったことも増えるでしょう。つまり、B級文化の総合施設の運営場所は、訪日外国人観光客が最初に訪れる率の高い大都市である東京がふさわしいといえます。

次に社会情勢から見た本ミュージアムの必要性です。以前、訪日外国人観光客の旺盛な消費が話題になりましたが、最近では外国人観光客の消費トレンドは体験へと変わりつつあります。このような状況では訪日外国人観光客に日本文化を強く印象づけ、東京地区だけに止まらない日本各地のリピーターになってもらうことが必要です。この点、B級文化は玄人の実演を見てそれを自ら行うことが肝になるので、その総合施設の運営は有用です。たとえば諸国の要人が本ミュージアムを訪れれば、日本への好感度が上がったり、その魅力的な空間の創造に携わった事業者に対する興味が湧くなど本ミュージアムは国策・外交レベルでも役立つはずです。

むろん、日本人としても日本文化の再発見になります。とくに社会が成熟しつつある現代の日本では、お金や余暇を文化的な体験に投じる習慣がもっと広まってもよいでしょう。また日本人は、自分の業務関連あるいは外国人の方から話しかけられなければ自分から外国人と交流しづらいと考えている人が多そうですが、B級文化を介した交流ならそういった垣根は低くなります。多くの未成年者にとってもA級文化の展示施設は難しかったり退屈だったりしますが、B級文化は小難しい要素が少ないため、本ミュージアムの開設は文教面でも有用です。

本プロジェクトは日本の様々なB級文化を一つの施設に集めて展示して、その道の玄人による実演を見てもらうとともに、来場者に体験してもらう総合施設を設置・運営するものです。その第一歩が東京都議会から支援の採択をいただくことです。そのための陳情は先日提出しました。

さて、本ミュージアムは運営面の具体的な工夫として、春は桃の節句や端午の節句、夏は線香花火を通じた夕涼み会、秋は月見、冬は餅つきや節分といった日本の四季を感じていただけるような体験型行事を催します。こうした行事とB級文化を季節感とともに総合的に売り込んでいる施設は存在しないので、その独占的地位からいって利用者とスポンサーは一定数見込めます。以上のような独占性とワンストップ性があれば、時間に余裕のない短期ツアー客や学校遠足の需要は高確率で取り込めるわけです。

また気は早いですが、本ミュージアムには「いつかはあなたも展示の主役」というキャッチコピーを考案しました。これは、インターネットやコンテストを通じて来場者が優れた折り紙作品を本ミュージアムに提供すれば、来場者は展示主体になれるということを意味します。それは食材や粘土といったありふれた材料の作品でも構いません。

一般に日本の伝統的な展覧会や美術館の作品選定では作者のコネクションや文化・作品の権威が優先されがちでが、本ミュージアムは無名の一般人による作品であっても作品の出来さえよければ積極的に展示します。グローバル化が進んでいる現代にあっては、作品選定が開放的なミュージアムがあってもよいからです。

本プロジェクトにいうB級とは「A級とは異なり自らが担い手となる文化」という程度の意味であって、B級文化の作品でも出来が一流であれば立派な展示物です。このような形で展示物を集められれば展示物の購入費用が抑えられるうえ、その保存もA級文化ほどの繊細さを要求されません。

さらに、地元の高齢者を館内スタッフとして雇って自慢のけん玉技を披露いただいたり、若者が期間限定の食べ物アートを提供するのもよいでしょう。本ミュージアムを訪れた時点では折り紙をまったく知らなかった訪日外国人観光客が、母国で腕を上げてから自身の作品を披露したりその生の評価を知りたいがために本ミュージアムを再び訪れることも十分考えられます。

このように文化は、ネット上や自国圏だけで完結させずリアルのミュージアムで多くの人に見てらうことによって、そのミュージアムが立地している街とともに循環的に活きてきます。ネット上で話題になったアートや期間限定アートの展示という形態は現代人の嗜好や行動様式に適合しているうえ、ミュージアムに新鮮さを常にもたらします。

本案はまだ陳情段階にすぎません。そこで、まず都議会で本案を採択していただくには東京地区と関連行政の政治家、スポンサーになりうる法人様からのご理解・ご支援が必要です。また誰でも手軽にできるご支援(民意の高まりへ)として身のまわりで本案を話題にしていただければと思います。

私は、東京都の採択を得て具体的な実行段階に達した暁には大型のクラウドファンディングを実施する予定です。この場合もご支援いただければ幸いでございます。

酒井 峻一
『高校生からわかる社会科学の基礎知識』著者・個人事業主