「大江戸B級文化ミュージアム」を作ろう --- 酒井 峻一

アゴラ

世の中には良い公共事業と無駄な公共事業がある。私は後者については反対の立場であるが、前者については、道路や水道という我々の生活に関わるインフラ以外の分野でも推進していくべきだと考える。この度は観光業に関して、私が考え抜いたアイディア・クールジャパンを一つ提示したいので、皆様にはそれについての賛否を聞かせていただきたい。


大江戸B級文化ミュージアムとは何か。ここで注目していただきたいのは「B級文化」という言葉である。これは「B級グルメ」という言葉をヒントに、私なりにつくり出した言葉である。よって、ここでは、B級とは「庶民」を意味し、A級とは「エリート」を意味するものと解釈していただきたい。すなわち、A級文化とは、浮世絵、屏風絵、絵巻物、仏像、歌舞伎、刀剣など、国立博物館に常設展示されている作品や、小中高の日本史の教科書に掲載されている文化のことをいう。これらの多くは、特定人によって生み出され、博物館でガラス越しでしか観覧できないものだ。

それに対して、B級文化というのは、飴細工、花火、百人一首・かるた、折り紙、紙芝居、錦鯉、盆栽、ベーゴマ、三味線、和太鼓など、日本史の教科書には殆ど掲載されていないものの、日本人の心根に浸透した庶民文化である(その正確な起源は必ずしも日本とはいえない)。とくに折り紙や盆栽、紙芝居などには、A級文化とは異なって、誰もが簡単にその分野の作者になれるという特徴がある。日本人の中には、実際に触れたり創り出したりすることが非常に困難なA級文化よりも、日常的に親しんできたB級文化の方が好きだという人も多いのではないだろうか。またB級文化は、百人一首・かるたなどを除いて、日本語や日本史を紐解かなくても容易に親しめるという点で外国人にも受け入れられやすいといえるだろう。

ところが、このB級文化の展示施設、現状では各地に点在しているのである。折り紙に関しては文京区や石川県に、花火に関しては墨田区に、盆栽に関しては江戸川区というように、訪れるには面倒なのである。外国人観光客が訪れるには、なおさら面倒なことだろう。また一部を除いて、その殆どは受動的で小規模な展示に留まっている。

B級文化は、A級文化とは異なる優れた芸術性があり、実演型展示や体験教室など、日本文化を見るだけでなく内面化することにも大いに役立つ。さらにB級文化は関連品の販売に関して、それなりの需要が見込めるというのに、今の日本には集約型・実演型・商業型・体験型の博物館が極めて乏しいのだ。そこで東京の下町エリアに、以上の要件に適したミュージアムを建設することを提案したい。

マンガやアニメについては、その気になれば、訪日することなく各種メディアを通じて手軽に見ることができる。また「A級文化」の施設は充分に整備されている。しかし、「B級文化」については本や動画からではなく、日本人の職人技を実際に目の当たりにし、体験することによって印象付けられる。さらに、このような施設は、日本人にとっても日本文化の再発見の場として有用である。日本文化を単に見てもらうだけで終わるのではなく、日本で連綿と受け継がれてきた庶民文化を実際に感じてもらうのだ。

ネーミングについては問題があるかもしれないが、これは無駄な箱物ではなく、博物館事業や観光行政の再編に寄与するものだと私は考えている。

※私は、「大江戸B級文化ミュージアム」は日本文化を展示し体験してもらうのだから、「ミュージアム」という外来語よりも「博物館」という日本語を使うべきだと当初、考えていた。しかし、日本で「博物館」というと、学術的資料を収集し、一方的・網羅的に資料を展示する施設が想起されやすい。したがって、それとは一線を画し、体験型展示を重視するという点で「ミュージアム」という語を使用した。

酒井 峻一
『近代:社会科学の基礎』著者
個人事業主