なぜCTを撮っても医師はがんを見逃すのか?予防策は?

2017年11月14日 06:00

10月30日、横浜市立大学付属市民総合医療センターは、動脈瘤の手術のために入院した患者の膵癌が見逃され、5ヶ月間放置し適切な治療が施されなかったたことを公表しました。

該当患者は術前にCTを撮影しており、その際に、放射線科医から膵癌の可能性を指摘されていましたが、それを外科の担当医が見逃し、結果として癌が放置されることになった患者は五ヶ月後に他の病院で膵癌を指摘され、その際は既に癌が進行しており、その後癌によって死亡したとされています。当初CTが撮影された際には、癌はまだ手術が可能な段階であったとの報道でした。

「見逃し事件」これまでにも

実は、このような「画像所見の担当医による見逃し事件」は、これまでにもいくつか報告があります。名古屋大学病院では、2011年にPET検査で肺癌を疑われたにもかかわらず、主治医が見落とし、3年後に発見されたときには末期となっていた事例が報告されています。また、今年の2月にも、慈恵医大にてCTで指摘された肺癌の見逃し事例があったことが明らかにされています。

まず最初に申しますと、こういった事例は決して、「特殊な病院の特殊な環境下で起こること」ではありません。どの病院にでも、可能性は低くはあっても起こりうる事例だと思います。

このような見逃しが起こるのはなぜなのか、それを予防するにはどうすればいいのかを、現役の一放射線科医の視点から考えてみたいと思います。

1. CTやMRIなどの画像検査を行ったら、どうやって診断されるの?

CTやMRI検査は、1970年代に実用化され、その後病院への普及がすすみ、現在では診療では最もポピュラーな検査となり、検診でも使用されています。腹痛や頭痛でCTを撮ったことのある方も多いかも知れません。

CTを撮影すると、ある程度以上の規模の病院では、放射線科医が常駐しており(「放射線科医」には、画像診断を行う診断医と放射線治療を行う治療医がいますが、ここでは前者の意味です)、画像を読影します。

たとえば、腹痛でCT検査を受けた人で、虫垂が腫れている場合、「虫垂に腫大を認め、内腔には液体が充満している。虫垂炎を疑う。穿孔や腹腔内膿瘍はみとめない」などの内容をレポーティングシステムに入力し、主治医は電子カルテを通してレポートを読み、画像診断結果を知ることになります。もちろん、内科や外科などの医師も各々の専門分野に関しては画像を読影する能力に長けているので、自分でも画像をみて、診断を確認し、治療方針を決定します。

通常、外科や内科などの臨床医は、画像診断レポートの結果を確認することで放射線科医の診断を知るわけですが、例えば消化管穿孔などのように、その日にすぐ手術が必要であったり、緊急を要するような場合には、放射線科医は通常主治医に電話連絡をします。

ただ、今回の件のような癌が疑われる状態が新たにみつかった、というような場合ですと、「その日に直ちに処置をする必要がある案件」というわけではないため、電話連絡はせずに主治医の確認に任されることもあるのが実情です。

2.「見逃し」が起こりやすいのはどんな場合?

では、「画像で新たに見つかった病気が見逃される」ことが起こりやすいのはどういう場合でしょうか。

よくあるのは、主治医の専門分野と全く異なる疾患が発見される場合や、かかっている病気の部位から遠く離れた部位に新たに発見される、というような場合です。

そうでない場合は、万が一画像診断医のレポートがチェックできなかったとしても、主治医自身が異変に気がつくことが多いのです。

例えば、腹部の動脈瘤を手術して経過観察をしている人が、肺に腫瘍があっても見逃されてしまう、ということは起こりうるかもしれません。動脈瘤を診る場合と肺を診る場合とでは、画像処理の仕方が異なるので、モニター上で処理を行わないと異常が確認できないこともあります。

見逃しをしないためには、主治医は放射線科医のレポートをチェックすることが不可欠ですが、外来で一日に30人以上を診ることも多く、かつ手術や入院患者対応にも追われる臨床医は、忙しければ忙しいほど、チェックが出来なかったり、チェックを忘れてしまうような状態に追い込まれることがあり得ます。

3.「見逃し」を防ぐための手立ては?

今回の橫浜の病院の件では、「部門同士の連携不足」を指摘する向きもありました。画像で異常を新たに見つけたら、特に命にかかわるような場合には、緊急でなくても注意喚起をするシステムをつくることは重要であると考えられます。これまでは、放射線科医が主治医に直接連絡をする、という形が多かったのですが、外科医であったりすれば手術で電話がつながらないことも多く、医師個人同士のみのやりとりではどうしても限界があります。

ある大学病院は、緊急ではないけれども重要な疾患が新たに見つかった場合は、画像診断部の事務クラークに放射線科医が伝え、そこから主治医に連絡が行く仕組みとなっています。こういったクラークや、外来看護師などの活用も必要になってくると思われます。

また、電子カルテで対策する方法もあると思います。画像診断レポートを既読にしないと、患者のカルテ画面が終了できない仕組みになれば、否が応でも結果をチェックせざるを得ません。

このように、二重、三重の取り組みが必要になってくると思われます。

また、日本は欧米と比較すると、同じ病床数の病院当たりに勤務する医師、看護師などのスタッフ数が少なく、少ないスタッフ数でなければ医療経済が成り立たない仕組みになっていることも一つ大きな問題です。1人1人が多忙、過労に追い込まれやすく、ミスを誘発しやすい環境があるともいえます。スタッフ数を増やしても病院を経営できる仕組みを考えていくことが重要ではないでしょうか。

また、画像診断に関して言えば、スタッフが少ないのにもかかわらず、保有するCTやMRIなどの機器が世界で飛び抜けて多く、検査数も多いのが日本です。これにも、わが国の画像診断の歴史や医療経済的要因が関わっていますが、少しずつ改革していく必要がありそうです。

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松村 むつみ
放射線診断医、メディカルライター、アゴラ出版道場二期生

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