知られていない水道事業の危機

山田 肇

わが国の水道事業は危険な状態にある。全国の約7000の水道事業は約2000の水道事業体によって営まれているが、特に小規模な事業体は経営基盤が脆弱である。水道事業体の3割は原価割れで水を供給しており、今後、老朽化した管路などの更新負担が重なってくると動きが付かなくなる恐れが高い。そこで、徳島大学で実施された行政事業レビュー・秋の年次公開検証で「水道事業の基盤強化とPFI導入推進」について議論した。

水道事業を主管する厚生労働省が取り組んでいるのが広域連携の推進である。小規模事業体同士を連携させ「規模の経済」で効率を上げる狙いである。徳島の隣にある香川県では2016年にほぼ全県で広域連携化に合意し、来年から運用がスタートする。

しかし全国でみると広域連携は進捗していない。これは水道事業体に危機感が乏しいためである。総務省の指示の通り将来展望を記載した「経営戦略」を策定した水道事業体はおよそ1/3にとどまっている。国民も安全な水が飲めなくなる恐れを実感していない。

水道事業は公営事業として営まれているが、運営を民間に委ねるPFI(Private Finance Initiative:民間への公共施設運営権の付与)は経営を合理化するものとして期待されている。政府はPFI推進を唱えているが、浜松市などが事前検討に着手した段階で実績はない。事前検討では資産の価値評価(デュー・ディジリエンス)が必要だが、水道事業体にはそれを実施するノウハウがない。

水道事業の将来を開くためには、広域連携やPFIについてノウハウを広めなければならないし、また、各地・各国のよい実例や課題をどのように克服したのかを知る必要もある。水道事業体に経営知識を普及し経営改善に具体的に取り組めるように、地方公共団体・水道事業体への支援を強化するように求める、というのがレビューの結論になった。

ところで水道事業は地方の意思で実施されているから、中央がみだりに介入するのは避けなければならない。しかし地方の自発的決定に委ねてばかりでは、危機への対応が遅れる恐れがある。さらに今回議論した各府省の取り組みが役立っているかを評価するためにも、政府として広域連携やPFIの実施件数についておおよその目標を持つべきという結論になった。水道事業がパンクして安全に水が飲めなくなるかもしれないということを、もっと国民に知らせるなければならないという意見もあった。

レビューの途中で、PFIで民間に委ねると水質維持など安全面に心配がある、という意見がネットから寄せられた。これについては水質等の管理責任は水道事業体に残るので心配ないという説明があった。