条例が民泊を殲滅する

加藤 拓磨

民泊を自主的に規制するマンションにはこんな張り紙も(編集部)

住宅宿泊事業法いわゆる民泊新法が2017年6月9日、参院本会議で可決、成立し、2018年6月15日より施行され、民泊ホストは自治体に届出することで年間180泊を上限として、住宅の空き部屋に旅行者を合法的に宿泊させることが可能となりました。

自治体は条例によって、民泊に対するルールに規制をかけることができます。
届け出などの準備行為は民泊新法の3ヶ月前からできるため、区で独自のルールを定める場合、来年3月15日までに条例を定めなければいけません。

私の住む中野区が現在抱えている民泊によるクレームは大きく分けて3つで、①時間・場所関係なしの騒音、②無秩序なゴミ捨て、③外国人が増える漠然とした不安、といったところです。

新宿区は旅館業、世田谷区は閑静な住宅地の良好な保全をするために、週末・祝日のみ民泊が可能とするようです。文京区においてはさらに厳しく土日のみとし、生活環境の保全に努めるとのことです。中野区においても現在、基本的には他区と同様の方向性であるとの素案が示されおり、駅周辺を除く住宅専用地域においては金・土・日曜日と祝日の以外は宿泊できないものであります。

住宅宿泊仲介業の方々にご協力いただき、中野区の現在の民泊情報について分析いたしました。
分析期間は2016年11月から2017年10月の1年間です。

まずこのサイトを利用し、中野に宿泊した人は4.8万人、サンプルは5万くらいから成り、高精度な情報となります。

まずホストの一年間の総収入は6.8億円です。
何曜日に泊まるかという宿泊特性はほとんどなく、ほぼ同率です。
つまり利用者は日本の暦などまったく気にしないということです。

表1 民泊ルールの変更と宿泊割合の変化

次に宿泊日数ですが、1泊が10.5%、2泊が13.84%、3泊が20.2%、4泊以上が55.6%です。(以後、4泊以上は4泊とした仮定して計算)

そして、来年6月15日から始まる住宅宿泊事業法では上限を180日としています。
曜日の宿泊特性はないため、概算で180/365を乗じると、現在のすべての宿泊を100%としたとき、1泊が5.2%、2泊が6.8%、3泊が9.9%、4泊以上が27.4%となります。
売上は4泊ならば1泊の4倍といたしました。住宅宿泊仲介業者によるとこの傾向は東京23区共通のものであるということです。

そして中野区の条例素案ですと金・土・日曜日・祝日が宿泊可能となりますので2018年における宿泊の許可が得られる連続日数と回数は1日が2回、2日が0回、3日が42回、4日が10回であります。

3泊するには連続日数が3日必要となりますのでおのずと連泊できる確率が求められます。
4泊以上の顧客が55.6%から1.5%へ減少するため、売上の全体は9.3%となり、概算ではありますが、運営を続けることは困難でありましょう。

無論、事業者も営業努力をするでしょうが、中野の民泊に対して長期滞在したいというニーズに応えられないインパクトは計り知れません。区条例ができることによって民泊は殲滅することでしょう。

生活環境の保全は最優先事項ではありますが、民泊が殲滅してしまっては、せっかくのグローバル推進のツールを一つ失ってしまいます。

そもそもの条例の制定の目的は先に挙げたクレームをなくすことです。

様々なクレームがある民泊ではありますが、いわゆる家主居住型は様々なクレームを生み出さずに運営ができるものと思います。

家主居住型は中野区内の民泊の33%を占めております。

クレームの①騒音・②ゴミ捨てに対しては家主居住型であれば、問題ありません。

家主が民泊利用者に対して、利用上の注意をダイレクトに説明できるためにクレームはないとの話です。

また基本的に事業者は自宅を利用しているため、周りからクレームを受けないように細心の注意を払います。

不在型は民泊新法で管理業者が入りますが、新事業のために業務がしっかりとなされるのかには疑問が残ります。

例えば、夜中の3時に騒音騒ぎがあったときに10分くらいで現場に到着できるのか、安かろう悪かろうの対応なのか、実態がみえません。

クレームの③外国人の方に対しての漠然とした不安に関しては、先ほどのサイトで年間4.8万人、国内シェアを考えると他のサイトを含めて多く見積もっても年間10万人、一日平均300人程度となります。

現在1万7千人、5%が外国人登録という中野区において、むしろ数百人の民泊というよりは賃貸における事例に対して、不安を感じられている可能性も否めません。

民泊新法では可能な限り家主居住型と不在型でルールをわけないようにとなっておりますが、北海道、京都市では居住型・不在型で分けての条例策定に向けて骨子を固めております。

杉並区も家主居住型と不在型でルールを分ける方針が出ているようです。

不在型民泊による生活環境悪化を防ぐとともに、居住型民泊の利活用によるグローバル推進がなされる条例が生まれるよう努力して参りたいです。

加藤拓磨
加藤拓磨 中野区議会議員

1979年、東京・中野区生まれ。中央大学大学院理工学研究科 土木工学専攻、工学博士取得。2009年、国土交通省に入り、国土技術政策総合研究所で、ゲリラ豪雨、防災・減災、地球温暖化による影響等の研究に従事。2014年、一般財団法人国土技術研究センターを経て、15年中野区議選で初当選。