12月27日、東レは、子会社の東レハイブリッドコード(THC)が製品検査データを改ざんしていた問題に関して、有識者委員会がまとめた調査報告書の内容を公表した。
委員会は、藤田昇三弁護士(元名古屋高検検事長)、永井敏雄弁護士(元大阪高裁長官)など3人の弁護士で構成され、補助者として、事務局の5名の弁護士が加わって行われた検討結果の報告書が公表された。
報告書によれば、2016年7月にTHCの役職員66名に対して実施された匿名形式のアンケート調査の結果、同社の品質保証室による検査数値の書換えを指摘するコメントが1件あったことから、同社において、自発的に同室の全職員に対するヒアリング調査及び検査成績表と実測値との照合が行われた結果、顧客に提出する検査成績表の数値の一部改ざんが行われていたことが発覚したものだった。
それ以降、同社において、アンケート調査の実施及び集計が終了した2016年7月11日には調査結果がTHC社長に報告され、翌日から10月まで、本件データ書換行為の対象となった製品の安全性の早急な確認に主眼を置いた調査(第1段階)が行われ、2016年10月4日には、東レ本社にも報告された。その後も、全容を把握するための2016年10月から2017年2月までの調査(第2段階)、続いて、実測データの残存する全期間のデータを対象とした検証を行った2017年2月から9月までの全面的な調査(第3段階)が行われた。
委員会は、これら会社調査の実施内容、調査結果、再発防止策及び対外対応の検証を行ったものだった。
その結果、検査数値の書き換えは、判明した当時の品質保証室長およびその前任の品質保証室長の2名が、「実測データが規格値から外れると、再測や特別採用等の本来的に想定されている手続きをしたのでは納期に間に合わないと考え、実測データが規格値から僅差の外れとなった場合または測定装置・測定方法の瑕疵により実測データが規格値から外れた場合には、製品が有する本来的な品質には問題がなく規格内にとどまるであろうとの思いから」行ったもので、組織的なものではなく、法令違反も、安全上の問題もないとされた。そして、THC及び東レが実施した調査も適切で、検査成績表と残存する実測データとの全ての照合の結果を待たずに早期に暫定的な報告を行うことも「THC及び東レの取り得る選択肢としてはありえた」ものの、顧客への報告方法・報告時期の判断に関して相応の合理性を有すると評価され、改ざんの事実の公表に関する判断などの対外対応も、以下のように述べて問題はなかったと結論づけられた。
規格自体が、企業顧客との間の製品の仕様に関する取り決めであって、本件は基本的にいわゆるB to Bの関係における問題である。そして、本件データ書換行為が直ちに法令違反に当たるものではなく、顧客製品の安全性に対する影響に問題は見られないというTHC及び東レの判断は妥当なものであるといえる。
また、THC及び東レは、2017年9月28日から、東レグループ以外の二次顧客に対する報告の申出を開始し、同年10月5日以降、順次報告を行っているが、同年11月28日以前において、二次顧客から安全性に問題があるとの指摘を受けていたものはなかった。
そうすると、本件データ書換問題が判明して以降2017年11月時点に至るまでの間において、THC及び東レが、本件データ書換問題については、法令違反や安全上の問題があるなど公表すべき社会的な必要がある場合には該当しないとして、対外公表を行う必要がない旨判断したことについては、企業として相当の理由があったものと考えられる。
要するに、THCの検査データ書き換えは法令上も、品質上安全上も問題はなく、極めて軽微な「形式的不正」で、東レ側の対応や対外公表等の措置も問題はないという検証結果だったのだ。
私は、一連のデータ改ざん問題は、「カビ型不正」の典型で、その背景には、近年「偽装」「隠ぺい」「改ざん」「ねつ造」等の形式的不正が異常なまでに批判される社会状況がある一方で、そのような形式的不正は、日本企業の多くに潜在化している可能性が高いことを指摘してきた。今回の東レ子会社の問題は、「カビ型不正」の中でも相当軽微で、実質的には全く問題のないものだったと言える。
このような軽微な問題であるのに、他の不祥事の発生を契機にコンプライアンスの強化を目的として行った匿名アンケートで、僅か1件のコメントがあったというだけで、THCと親会社東レで、その後、他の商品にまで対象を拡大して徹底した調査が行われたことの方が、コンプライアンス対応として評価に値すると言うべきだ。東レという企業の製品の品質への徹底したこだわりが背景にあるからだろう。
詳細かつ緻密に東レ・THCによる調査の内容が検証されている検証結果は十分に信頼に値するものである。その報告書で、今回の問題の東レ側の対応が上記のように評価されるべきものとされたことを、「日本企業のものづくりの品質に対する信頼を失墜させた」などと大騒ぎしたマスコミ、そして、それに対して全く無責任な批判に終始し、騒ぎを拡大させた経産省の側はどう受け止めるのだろうか。
特に問題なのは世耕弘成経産大臣の記者会見での発言である。
世耕氏は、東レが子会社の検査データ書き換え問題を公表した翌日の11月29日の定例記者会見で、「公表のタイミングもはっきり言って非常に遅い。こういうことは日本の製造業の信頼を傷つけかねないことだと思っております。」「顧客対応などとは別に速やかに社会に対して公表をして、社会からの信頼回復に全力を注ぐことを期待したい」等と発言した。その発言を、私は、【世耕経産大臣は、日本の製造業の‟破壊者”か】で「「データ改ざん」の基本的構図も、問題の性格も、全く理解していないとしか思えない。経産大臣がこのような発言を行うことで、この問題をめぐる混乱を助長し、日本の製造業に対する国際的信頼を失墜させかねない」と批判した。
今回の有識者委員会の検証結果から、「公表のタイミングが遅い」「顧客対応などとは別に速やかに公表を」との世耕大臣の発言が全く的外れだったことが明らかになった。世耕大臣は、まず、報告書を熟読し、問題表面化時に問題の中身も見極めず軽率に批判して混乱を助長したことを真摯に反省すべきだろう。
世耕氏は、経歴詐称が発覚して経産省参与を辞任した齋藤ウィリアム浩幸氏の問題についても、12月22日の大臣会見で「経歴に関しては、経済産業省として御提出いただいた経歴の中には、別に何か虚偽に当たるようなことはなかったと認識をしております。」などと言い切って大恥をかいた。事実をろくに確認もせず軽率な発言を行ったという面では、データ改ざん問題への対応と同様だ。
経産大臣の対応・発言は、日本企業全体の利害に関わるだけに深刻だ。
編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2017年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。なお、本エントリー掲載時から数時間、他の執筆者アカウントで表示されていました。謹んでお詫びいたします。