台湾スパイ事件は沖縄、日本にとって対岸の火事ではない

2018年01月05日 06:00

正月早々、気になるニュースが入ってきた。台湾の検察当局が明らかにしたところでは、スパイ罪で公判中の男を経由して、統一を主張する台湾のミニ政党「新党」に対し、中国政府の台湾政策の部署から20万ドルが流れたというのだ。

台湾司法当局「統一派政党幹部に中国から資金」 スパイ事件で異例発表(産経新聞)

中国による台湾での工作活動は昔から盛んで、2009年には台湾総統府の職員がスパイとして摘発されているが、在NYの中国語メディア「新唐人電子台」が昨年3月に報じたところによれば、少なくとも5,000人は台湾国内にスパイがいるという。同記事に出てくる中国の元外交官の話では、武力による台湾侵攻が難しいことから近年は情報戦による浸透に力を入れてきている背景がある。

ミニ政党に資金提供されていた背景

スパイとされる元留学生の人間関係の図解(自由時報より引用)

スパイ事件の捜査内容は公訴後も、核心部分のすべてが明らかにされるとは限らないが、今回、台湾当局が捜査結果を明らかにしたのは、中国政府による浸透ぶりが深刻に進んでいることへの危機感を募らせてのことだろう。国内世論への引き締めと国際社会への見せしめ、もちろん後者には中国政府に対する「いい加減にしろや、おい」という牽制もあるのではないか。

もうひとつ興味深かったのは工作資金の“相場”だ。すでに支払われたとされる20万ドルに加え、3年間で毎年1500~1600万台湾元(約5700万~6000万円)の支払いが約束された、と報じられている(新党は事件への関与を否定)。新党は1990年代、当時の李登輝政権の独立路線への反発から再統一を主張して結成。現在は立法院(台湾の国会)に議席はなく地方議員をわずかに擁する程度の勢力しかないが、主席(党首)の郁慕明氏は過去の大陸訪問で胡錦濤や習近平と面会を果たしており、中国政府側が一目置いていることがうかがえる。

工作資金の名目はオピニオンサイトの運営費用だったというから、なんだか他人事にも思えないが、それはともかく、中国軍の軍拡の脅威に直面している日本社会としても、お隣の台湾で起きているスパイ事件は「対岸の火事」として漫然と見ていられるだろうか。

日本でも顕在化している中国のスパイ活動

日本国内における中国の工作活動は、あまり明らかになることはないが、近年では、2012年に駐日大使館の一等書記官が虚偽の身分で外国人登録証を取得して銀行口座を開設し、民主党政権閣僚に接触していた「李春光事件がある。李春光容疑者は警視庁公安部の出頭要請を無視して帰国。日本で中国の外交官がスパイ事件で摘発されたのはこれが初めてだったが、日本が、中国によるスパイ活動や情報戦の舞台になっている現実を示すインパクトとしては小さくなかった。

そして2018年。対中関係で気になるのは沖縄だ。台湾の隣であり、尖閣のご当地だ。公安調査庁はすでに2016年12月時点で「内外情勢の回顧と展望」において、沖縄県内における米軍基地の反対運動世論の利用や、琉球独立を主張する団体との接触といった中国側の動向をレポートしている。コラムも作成しており、引用しておこう(28ページより、太字は筆者注)。

コラム「琉球帰属未定論」の提起・拡大を狙う中国

○平成25年(2013年)5月、中国共産党機関紙 「人民日報」は,中国社会科学院の研究者が 執筆した,「琉球の帰属は未定」などと主張する論文を掲載した。中国は、公式には「沖縄 は日本に帰属」との見解であり,「中国政府の立場に変化はない」(外交部報道官)と表明しているものの、その後も同紙が「沖縄返還協定は不法」と主張する研究者の論文を掲載する(8月)など,世論喚起を狙った動きが見られた。

○さらに、平成26年(2014年)以降は、「人民日報」海外版などが“専門家の論評”との体裁で 同論を掲載しているほか,5月には,中国シンクタンクなどが琉球に関する学術会議を開催し、「琉球独立」を標榜する我が国の団体関係者らを招待した。また、「琉球新報」が「琉球処分は国際法上、不正」と題する日本人法学者の主張に関する記事を掲載した際には、人民日報系紙「環球時報」が反応し、関連記事を掲載する(8月)など、中国側の関心は高く、今後の沖縄関連の中国の動きには警戒を要する

沖縄を舞台にした“チャイナゲート”リスク

安倍首相と会談する翁長知事(首相官邸サイト、15年4月)

そうした中で、今年は普天間飛行場の移設問題の地元である名護市長選(2月4日投開票)があり、11月には知事選を控える。

これまで日本の選挙で外国政府による介入が露見して注目された事例はあまり聞いたことがない。しかし、世界の諜報活動の近年動向をみれば、インターネットの普及によって敵国から情報戦を仕掛けられるリスクが顕在化しており、油断できない。

韓国大統領選における北朝鮮のネットを通じた世論工作の動向はしばしば指摘されている。2年前のアメリカ大統領選では、ロシアが自国と友好的なトランプ氏が当選するように、ヒラリー陣営へのサイバー攻撃などの介入があったことが司法当局の調べで明らかになっている(ロシアゲート事件)。

そうした世界のインテリジェンスの激しい暗闘が繰り広げられているなかにあって、日本社会は、老練な中国のスパイ活動に対し、あまりに無垢な気がしてならない。もちろん、ニュース女子問題が教訓となったように過剰な陰謀論や憶測は慎まなければならないが、台湾で活動資金を提供していたスパイ活動が明らかになった以上、警戒は必要だ。

ただし、だ。仮に中国側に工作資金を提供されるような人たちがいたとしたら、日本政府や本土の人たちが基地負担を押し付けてきた歴史的経緯から、「付け込まれる隙」を与えてしまったことになる。そういう不幸が現実のものとならないよう、日本政府は沖縄県民の声に最大限配慮する努力は欠いてはならないし、同時に沖縄の翁長県政も国と不毛に対立する路線は軌道修正すべきだ。

現実的に沖縄問題を一歩でも前に進める意味でも、中国によるスパイ戦のリスクに対する認識は日本国民が広く共有しておきたい。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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