デンマークはなぜ「世界一幸せな国」と言われるの?

尾藤 克之

デンマークの人々の生き方を表現する言葉に「Hygge(ヒュッゲ)」というものがある。物質的な豊かさではなく精神性を重視した考え方。誰かと何かを一緒にしたときに生まれる、あたたかい気持ちのこと。Hyggeという言葉が広く知られるようになったのは最近だが、概念自体は新しいものではない。昔から存在する国民性と表現したほうがいいだろう。

今回、紹介するのは、『はじめてのヒュッゲ』(あさ出版)。11/25(土)TBS系「世界ふしぎ発見!」で デンマークの「ヒュッゲ」が紹介されて以降、静かなブームになっているようだ。話題になっていることは知っていたが、関連書籍を読むのははじめてになる。しかし、心地のよい本である。読み終わったらほっこりした気持ちになった。

北欧ならではの生活様式

Hyggeという考え方は、北欧ならではの生活様式がベースにある。ゆっくりした暮らしを提案しているので、スローライフの概念に近い。友人と輪になって座ったり、食べものを分け合ったりする習慣。時間と習慣によってつくられ、物語や儀式 価値観を通じて世代から世代へと受け継がれてきた考え方とされている。

世界で最も幸福な国民として知られるデンマークの人は、何百年もの間、Hyggeを楽しんできた。デンマークは生活水準が高く、医療制度も整っていて、教育も受けやすく、富も公平に配分されている。参考までに、デンマークは、国連の世界幸福度ランキングで1位を3回獲得している。そのような点からも、Hyggeに注目が集まっているのだろう。

デンマークの人が感じる、幸せの秘密は、日々のHyggeによってもたらされる満ち足りた気持ちと、揺るぎない安定、安心感にある。Hyggeを実践すれば、他者と一緒に生きる方法がみつかり、他者も自分自身も大切にする術を身につけることができる。つまり、のびのびとリラックスして生きることができる。

それでは、Hyggeとは何者なのか。それは、ありふれた日常に存在している。例えば、「キャンドルを灯して薄暗い部屋でまったりコーヒーを飲む」「親しい仲間を呼んで部屋でホームシアターをする」「みんなで料理を持ち寄って楽しく食事をする」。「ヒュッゲ」とは、このような日常にある、ほんの小さな幸せのことを表している。

幸福とはいったい何なのか?

デンマークでは、自分たちの生活に満足している人が多いそうだ。最低限、必要なものがそろっていれば、あとは欲しがらない。昔から単一民族国家だったので、国家や人々とつながりを感じて、穏やかで気持ちが通じ合う環境で幸せに暮らせていたのである。

それでも自介たちを取り巻く環境に不安やストレスを感じることもある。道徳心は強く、社会生活上の違いや経済力の違いをさほど気にしない。だから。見た目には日常生活は落ち着いているように見えるが、デンマークにも気になる問題が無いわけではない。

近年、移民の流入によってデンマークは多様な社会になってきたが、文化は昔の農村社会のままで、自立、連帯、わずかな格差という特徴を持ち続けている。歴史をひもといても国内に紛争がなかったことが、幸福を追求する素地となった。帰属感、一体感、生きる喜びといったHyggeの典型的な概念が国民全体をつないでいる。

ノルディックモデルの高福祉高負担国家で、国民の所得格差が世界で最も小さい世界最高水準の国。無理に頑張らなくても、お金をかけなくても、「世界一幸せな国」。玩具のレゴ、陶磁器ロイヤルコペンハーゲン、童話作家のアンデルセンが有名。デンマークはなぜ「世界一幸せな国」と言われるのか。その秘密がいま明かされる。

尾藤克之
コラムニスト