京大論文不正:これでいいのか、日本メディア

中村 祐輔

Wikipediaより:編集部

ネットニュースで「京大iPS研で論文不正 山中伸弥所長が謝罪」という標題の記事を目にして、急いで記事を読み、論文を調べた。

産経新聞には「所長を辞職するか報道陣に聞かれ、『その可能性も含め、どういう形が一番良いのか、しっかり検討したい』と話した」とあった。山中先生は、この問題となった論文の著者ではない。研究所長として管理責任はあるとしても、大学の組織上、研究所長がそれぞれの研究室が発表する論文の内容に立ち入ることは、普通はない。論文に関しては、筆頭著者を含め、全著者が責任を取るべきである。

大きな研究所のトップは、自分自身の研究室の研究内容について全責任を負うのは当然だが、他者の研究室の内容・運営に口出しする事はない。研究の内容・指導・予算管理は研究室単位で独立して管理される。常識的に考えても、研究所長が多くの研究室の細かい生のデータまですべて目を通すことなど不可能だ。山中先生は日本の宝であり、この研究所が山中先生がいなくなっても存立しうるものかどうか、わずかな常識があればわかるはずだ。

この件で、山中先生が辞職することなどあってはならない。ニュースの写真で見ると、憔悴しきった表情に見え、心配だ。先週、週刊誌の記事が引き金となって、小室哲哉さんが引退を表明した。全くプライベートなことで、引退する形で責めを負う必要があるとは思えなかった。プライベートなことが、メディアで晒された上に、一般社会に向かって頭を下げて謝罪する必要があるのか、なんとも不思議な国だ。

数年前、STAP細胞騒動で、メディアは日本の再生医療の牽引役を自殺に追い込んだ。いったい、メディアとは何様なのだ。

自分たちのミスは決して認めようとしないが、他人には正義の旗を振りかざして追い詰めていく。今回のiPS研究所の問題は、山中先生には辞職をしなければならないほどの責任があるのか?山中先生は、余人をもって変えがたい存在ではないのか?

今、ここで、この研究所が「山中伸弥」という大黒柱を失えば、日本という国にとってどれほどの損失になるのか、少しは考えて欲しいものだ。辞職して海外に行ってしまえばどうなるのか・・・・・・・・

メディアには、大局観で物事を考える人はいないのか!


編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2018年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。