速水健朗さん「東京どこに住む?」。「東京β」に続けて読んでみました。
東京の住むところは西側郊外から中心部、東部へ移っている。圏外から都心部への集中が進んでいる。そして、移動すること、場所を変えることが大事な能力になっている。2冊セット読み、お薦めです。
現代は都市間格差の時代。職業選び以上に、住む都市が人生の格差を生む時代。自分の置かれた状況を改善する手段として、住んでいる場所を変えることができるかどうかが問われていくといいます。
→所属企業・組織よりも、居住都市・地区。縛られずに自己決定するかどうか。同意します。
本書はR・フロリダ「クリエイティブ都市論」を引用し、社会的な階層の移動と地理的流動性は密接に関わり、移動する能力の有無によって人生の可能性が大きく左右されると説きます。
→その書(井口典夫先生訳)は、中でも世界的にみた東京圏の大きさ・強さを特筆しています。
「クリエイティブ都市論」
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2015/01/blog-post_12.html
そして、一生の間で引越しをする生涯移動回数は日本人は4~5回だとしています。
→ぼくは仕事場を含めると、55年の人生で27回引越しをしてます。でもこの本を読んで、もっと動いて攻めてもいいかな、と思い始めました。
人口増加率は千代田区、中央区、港区、墨田区、文京区、江東区が高い。合わせて、「閑静な住宅街」がマジックワードでなくなったと指摘します。東京の西側は振るわないんです。
→新宿・渋谷はともかく、世田谷があこがれでなくなってきたのは地殻的な動きですね。
2000年代前半、国土の均衡ある発展という国策を放棄した。東京は80年の1163万人から2016年3月の1354万人に、36年で200万人増を見せたといいます。そして今の人口集中は、東京圏というより東京の中心部への集中だと指摘します。
→政策の影響がどの程度か不明ながら、都心集中が進み、なお進行中なのは実感します。
特にITを扱う会社ほど都心にオフィスを構える。IT系ベンチャーはシリコンバレーからサンフランシスコに移っている、と指摘します。
→創造性がビジネスに重要だから。仕事とプライベートを地続きにしたいから。これは2000年ごろには明確な傾向でした。ビジネスの軸がハードからソフト、コンテンツ、アプリに移ると、担い手は「谷」より「街」を好みますから。
ここで本書はエドワード・グレイザーの言葉を借ります。ITが人と人の間の直接的コンタクトの需要を生んでいる。スマホの普及で近い距離の価値が高まった。
→かつて通信は「いながらにして」の手段だったが、モバイルが「いつでもどこでも」に変え、スマホは「リアル」を求めるようにしました。
狭くて混んでいて自宅に近い店が人気。個人の店舗が太刀打ちできる時代になった。という観察も。
→身近なコミュニティとコミュニケーションがネットで重みを持つ。個々の店が発信力と伝播力を持つ。「遠さ」を克服する通信が「近さ」を際立たせようとしているのは面白い現象です。
戦前、戦後、高度成長、バブル、そして2020へ。
西から東へ、周辺から都心へ、そしてコミュニティへ。
これから始まります。実に楽しみであります。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年2月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。