米朝首脳会談前の「金正恩氏の憂欝」

2018年03月16日 11:30

南北首脳会談は容易に乗り越える自信があったが、その直後に控えている米朝首脳会談を考えると、金正恩氏は次第に憂欝になってきた。文在寅大統領との会談で非核化問題が扱われたとしても、それ以上発展する可能性はないし、非核化に消極的に対応したとしても会談が幕を閉じればそれで終わりだ。

▲韓国特使団と金正恩委員長との会談で第3回南北首脳会談開催で合意(2018年3月5日、韓国大統領府公式サイトから)

▲韓国特使団と金正恩委員長との会談で第3回南北首脳会談開催で合意(2018年3月5日、韓国大統領府公式サイトから)

しかし、あのトランプ大統領と会談し、非核化を協議した場合、中途半端な答えでは終えることができない。簡単にいえば、イエスかノーしかないし、それも即断を強いられるだろう。米朝首脳会談が金正恩氏に次第に重荷となってきた理由も想像できる。

なぜならば、トランプ大統領が要求する非核化について、金正恩氏は曖昧な空返事はできない。イエスと答えたならば、会談はトントンと進み、トランプ氏をハッピーにさせることができる。しかし、ノーといった場合、トランプ氏は外交手段で朝鮮半島問題を解決することを止め、いつでも軍事力を行使できる体制に入るだろう。

「米本土を攻撃できる」と日頃強がりを言ってきた金正恩氏も米国との全面戦争ではチャンスがないことを理解している。米国との戦争勃発は北朝鮮の終わりを意味する。もう少し厳密にいえば、北朝鮮は存続できるが、金日成主席、金正日総書記、そして金正恩委員長と3代続いてきた“金王朝”が文字通り地図上から消えていく。

繰返すが、南北首脳会談は金正恩氏にとってリスクはほとんどないが、米朝首脳会談はその進展次第で大きなリスクが出てくる。金正恩氏は次第に米朝首脳会談が何を意味するかを分かってきたのだ。

ティラーソン国務長官を即解任するトランプ氏の無鉄砲なほどの決断力と行動力を考えれば、米朝首脳会談で金正恩氏からいい返事を得られない場合のトランプ氏の反応が怖いのだ。11月には中間選挙が控えていることもあって、トランプ氏はその外交実績のために北朝鮮へ武力行使を躊躇しないかもしれない。強硬派のマイク・ポンぺオCIA長官がティラーソン国務長官の後継者に任命されたことも、金正恩氏の不安を一層駆り立てている。

文大統領は、「南北首脳会談と米朝首脳会談は朝鮮半島の運命を決定する歴史的な出来事だ」と少々紅潮気分で表明していた。前者の南北首脳会談は前座に過ぎないが、後者こそ文字通り、朝鮮半島の歴史を塗り替えるかもしれない。

韓国の訪朝団から金正恩氏がトランプ氏との首脳会談を望んでいることを聞いたトランプ氏は即受諾した。そのニュースは世界に発信されたが、不思議なことに北の朝鮮中央通信や中央放送は報道していない。
韓国統一部は12日、「慎重に検討中だからだろう」と好意的に解釈しているが、実際は、金正恩氏が米朝首脳会談の日を迎えることに次第に恐怖心を感じ出しているからではないか。ひょうとしたら、いろいろな理由をつけてキャンセルするかもしれない。

朝鮮半島問題をフォローするジャーナリストには平壌指導者の考えを正確に読めきれない歯がゆさが常にあるが、金正恩氏はトランプ氏の言動を読めきれないことに苦慮し始めている。立場は逆転したのだ。換言すれば、北は今、トランプ氏の不可測性に頭を悩ましている。非核化を拒否すれば、戦争が起きるかもしれない。トランプ氏はモラトリアムでは満足しないだろう。「完全かつ検証可能、不可逆的な方法」による非核化だ。

金正恩氏のこれまでの発言を思い出せば、北はモラトリアムまでは可能だが、「完全で検証可能で不可逆的な」方法による非核化は受け入れないだろう。
すなわち、米朝首脳会談でトランプ氏が非核化に応じない金正恩氏に激怒し、ティラーソン国務長官を解雇したように、ツイッターで対北戦争宣言し、その3時間後にトマホークを平壌に向かって発射させる、といった事態も考えられるのだ。

北の独裁者は、オバマ大統領、ブッシュ大統領、クリントン大統領に対して感じたことがなかった恐怖心をトランプ大統領から感じ始めているのだ。世界の超大国・米国の最高指導者が暴れ出したら、それこそ大変だ。誰も抑え込むことができない。知性主義者の米国指導者は解決できなかったが、反知性主義者のトランプ氏は北の核問題を解決するかもしれないのだ。

米大統領の任期は4年間だ。時間は限られている。オバマ氏のような大統領が再び登場したら、北朝鮮の核問題は半永久的に解決できなくなる。日本と韓国はトランプ氏の登場を絶好のチャンスとして生かすべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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