バロンズ:米株投信への記録的な資金流入は、売りシグナルなのか

2018年03月19日 06:00

バロンズ誌、今週の特集は長寿化とその負担を取り上げる。日本と同じく、米国でも長生きのリスクが指摘されるようになり、65歳以上の70%近くが長期に及ぶケアが必要とされているという。それでも、米国人の多くが長生きへの準備不足に陥り、ジェンワース・フィナンシャルの調査では、回答者の3分の2が政府の全額負担あるいは部分的負担を望む状況だ。米国はどのように長寿リスクに対応するのか、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウオールストリート、今週は堅調な米株を掲げる。抄訳は、以下の通り。

強気派が神経質になるべき理由—Why the Bulls Should Be Nervous.

関税?政権内の混乱?ポルノ女優への口止め料?それが何だ?——というのが、毎日怒濤のように流れてくるニュースに対しての米株の反応と言えよう。”取り残される恐れ(fear of missing out, FOMO)”と”押し目買い(but the f**king dip、BTFD”といった言葉で象徴されるように、米株はあらゆるニュースへの耐性を身につけつつある。

その証拠に2月の急落を経て、投資家は3月14日までの週に米国株ファンドを383億ドル買い越し、過去最高を更新した。ダウが400ドル以上も上昇したように、米2月雇用統計のグッドニュースも追い風となったに違いない。

トランプ政権から辞任、解任が相次いだが、金融市場ヘの影響は現時点で限定的だ。ティラーソン前国務長官がツイッターを通じて解任された時、また2016年の大統領選でトランプ氏に勝利をもたらしたペンシルベニア州の下院選挙で、共和党が20年近く確保していた議席を失った時も、米株安は一時的だった。

国家経済会議(NEC)のコーン前委員長の辞任も、米株安は想定されたほど進まず。後任が保護主義のナバロ通商製造業政策局長ではなく、自由市場と資本主義を愛するラリー・クドロー氏だったため、資産価格の下落が回避あされる期待が強まったためだ。WSJ紙は、ナバロNEC委員長誕生での米株売りを推奨していた。

そのクドローNEC委員長は自由市場の信奉者だが、トランプ大統領と歩調を合わせ貿易障壁を下げるには関税というなのこん棒が有益と語った。クドロー氏の立場が風見鶏であるというのは、最近の話ではない。1960年代に超左派系団体の民主社会学生同盟(筆者注:クリントン元大統領も参加)の一員だったものの、1980年代にはレーガン政権を支える共和党員に移った。クドロー氏の新しい役割は、トランプ政権が望む強気相場の広告塔と言える。

米株は確かに底堅いものの、上値の重さも気になりますが・・。

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(出所:Stockcharts)

米株市場が堅調に推移しているのは、カナダとメキシコといった北米自由貿易協定(NAFTA)諸国に対し、鉄鋼・アルミ関税賦課の対象外としたことにあり、貿易戦争への懸念が低下したためだろう。ただし中国に対しては(知的財産侵害に対する)厳格な関税賦課を検討しているようだが、金正恩委員長との首脳会談に応じる構えを見せるトランプ大統領が何をするかは、分からない。

政治で何が起ころうとも、米株の投資信託に大規模な買い越しがみられ、強気派に安心感を与えたに違いない。ただし、2月初めに米株が急落する直前の1月、米株ファンドに1,000億ドルもの資金流入を確認、特に海外投資家が米株を12月に371億ドルに続き1月も335億ドル買い越していた。こうした動きは、メリルリンチに在籍していた著名なマーケット・アナリスト、ボブ・ファレル氏の名言「大衆は底値ではなく、上値で買うものだ」を彷彿とさせる。

米株の投資信託になだれ込んだ買い手は、政策の不運から生じるリスクを無視しているのかもしれない。例えばボーイングは、鉄鋼・関税にいる影響で素材価格のコスト負担が増す可能性がある。同社の株価は2月28日の直近高値から13%下落、3月12日週だけで7%落ち込んだ。

関税や閣僚入れ替え、そしてスキャンダルはさておき、減税を含めた財政政策は輸入増を通じ貿易赤字を拡大させ、財政赤字は国債発行を余儀なくし、海外からの借入が必要になってくる。その一方でクドロー氏はCNBCのインタビューで経済が突進するに任せるべきと語り、過剰な利上げを牽制した。利上げペースの鈍化は”王様であるドル”を下落させかねず、その後の進展はどのスキャンダルより興味深いものとなるだろう。

19日週にワシントンD.C.から流れて来るニュースとしては、米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げが予想される。市場は100%織り込み済みで、注目は経済・金利見通しだ。パウエルFRB議長のデビュー戦となるFOMCでは、記者会見での発言に熱い視線が注がれよう。グリーンスパン元FRB議長は「もし私が明確に発言し過ぎれば、誤解するに違いない」と発言したが、パウエル氏は金融政策見通しについて曖昧な言葉を使わず、説明する見通しだ。

米2月雇用統計を受け、これまで年3回の利上げ予想・中央値だったFF金利見通しに、どのような変化が生じるのか注目される。アドバイザーズ・キャピタル・マネジメントのチャールズ・リーバーマン氏によれば、労働人口は過去2ヵ月間で132.4万人増加したが、そのうちラテン系が52.3万人と39.4%を占めた。しかし、ラテン系は人口の16.5%に相当する程度だ。なぜ、こうなったのか?

リーバーマン氏は、プエルトリコ人の流入を挙げる。債務不履行の危機やハリケーン”マリア”の直撃などを受け職探しが困難な状況下、米国で仕事に就いているというのだ。労働市場から退出した米国人が短期間のうちにカムバックしたという考えは、希望的観測に過ぎないという。逆に言えば、プエルトリコ人が国に戻れば、労働不足が深刻化する公算だ。プエルトリコ人の流入で労働市場が一段と過熱するなか、年3回の利上げ予想は、慎重過ぎるかもしれない。


プエルトリコ人の移民増はフロリダ州を中心に確認済みで、2017年9月〜12月に約30万人に及びました。その半面、「非労働人口ながら、いま就職の意思がある男性」の人数は238万人とまだ景気後退以前の2007年の210万人に届きません。失業率が2000年末以来の低水準ながら、当時の190万人には程遠い。こうしてみると、労働市場から退出した男性を中心に労働市場に回帰したとは判断しづらい。また移民が就く職をみても比較的、低賃金が多いため全米レベルで賃上げを招くか微妙と言わざるを得ません。むしろ、労働市場の拡大で賃上げペースが鈍化する恐れもある。FOMCが3月20〜21日会合で年内の利上げ予想・中央値を4回に引き上げる可能性は、低いのではないでしょうか。

(カバー写真:Adam Cohn/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年3月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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