財務省の公文書改ざん、問題なのは少なくとも複数の人間が関わり、それでも実行されてしまったということです。
横領事件によくあるように1人の人間がしでかしてしまい、それを周りが見抜けなかったというような事であれば、それは個人の腐敗であり、管理体制が甘かったという事でもありますが、改善策を講じる事は出来ます。
しかし、上からの指示で(どこまで上かは現在のところわかりませんが)複数の人間が違法行為と知りながら行ったとすると、これはもう組織自体の腐敗であり、有効な改善策が簡単には見つかりません。民間企業のように、不正を犯した会社には退場して頂き、他の会社が取って替わるというわけにはいかないからです。
これを機に財務省を解体し、歳入庁を設置しようと言った意見も耳にしますが(その意見には賛成ではあるのですが)、それでも省庁という場所で、複数の公務員が関わりながらも違法行為が行われてしまったという腐敗に至る原因自体は何も変わりません。
個人の腐敗はどんな組織であれ必ず起こり得ます。腐敗した個人が出世し、高い地位を得ることもあるでしょう。
この問題の根の深い所は、おそらく関わった人達が皆、私利私欲のためにリスクを取って不正を行ったのではないであろうという事です。
公文書の改ざんを命じられた者は、「違法なので出来ません」と断れば、ただそれだけで済んだんでしょうか。そんな事はありえない思います。絶対タダでは済まなかったでしょう。その後、どのような辞令がでるか、職場でどのように扱われるか、わかったものではありません。
不正な指示を断るだけの事が、おそらくとんでもない困難を呼び寄せる事は目に見えている状況であったんだと思います。
しかも、財務省で働いている人達は、エリートと言われる層です。しかし、民間のエリートに比べ公務員のエリートは潰しが利きにくく、現在と同程度の条件での転職は民間のエリートよりも遥かに厳しい状況でしょう。
強い正義感や使命感を持って入省した者であっても、家族の生活などを考えれば、不正を黙認してしまう事もありえると思えますし、中には指示された不正に手を貸してしまう者も出てきてしまうのでしょう。
それらが自らの出世の為だとか、自分の失敗を隠蔽するために個人が行うものであるのなら、個人を処罰すれば済む話です。そういった不正は組織内であっても他者に知られれば発覚します。
問題は、不正を働く動機のない者が、保身のために不正に手を染めなければならない状況が生まれてしまうことです。公文書改ざん問題もそう言った種類の事ではなかったのだろうかと推察しています。
これに対して、抜本的に解決できる改善策は思いつきません。しかし、公務員の極端な雇用の硬直化が、拍車をかけてしまっているのではないでしょうか。
各省庁や地方自治体の職員は、その組織に所属し続けるしか、公務員で居続ける事は出来ません。「財務省から文部省に転職しました」なんて話は聞いたこともありません。これは、日本では一度就職した同一自治体での移動や昇進を繰り返し、定年まで勤め上げる前提のシステムとなっているからです。(アメリカやイギリスなどは空ポストが生じた場合に採用が行われる官民間での労働力の移動が前提のシステムとなっています)
自分は日本の終身雇用・年功序列の雇用制度をあまり否定的に見てはいません。様々な問題点や矛盾も感じてはいますが、状況次第ではこの雇用制度がもう一度世界と競争する原動力となり得る可能性も感じているからです。
しかし、民間ではなく公務員のような、同一の業界で他社への転職が不可能な職業において、終身雇用・年功序列の雇用制度は、その弊害を最大限に発揮するのではないかと思えます。
その結果が、民主主義の根幹を揺らし得る今回の公文書改ざん事件ではないでしょうか。
総理大臣か財務大臣を辞めさせるのか、それとも財務省か国税庁のトップを辞めさせるのか、もしくは中間管理職を切るのか。もちろん責任問題として誰かが責任をとる必要はあるのでしょうが、それだけで終わらせてしまえば何も解決しません。
複数の公務員が関わりつつも改ざんは実行された。その事をしっかりと重く捉え、公務員のあり方や雇用制度まで徹底した議論をする事が必要です。
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林 けんいち
インターネット通信販売・飲食店経営を経て現在はフリーランスの営業・ライター活動に従事。
個人ブログ:非常識バイアス