日本が鉄鋼・アルミで制裁された理由:日米関係は本当に良いのか?(特別寄稿)

2018年03月30日 06:01

隙間風が?(首相官邸サイトより:編集部)

今月、トランプ大統領が鉄鋼・アルミに関する関税を発表したことを受けて、安倍首相・トランプ大統領の間に隙間風が吹きつつあるのではないかという懸念が拡がっています。そして、国内では佐川氏証人喚問などが世間の注目を集めていますが、金正恩氏が訪中するなど世界情勢は日本抜きで急速に進展しつつあります。

「日米関係が良好だから」貿易交渉が甘くなる…わけはない

日米関係はトランプ政権発足以来、安倍首相・トランプ大統領の間で良好な関係が築かれてきた、と喧伝されてきました。しかし、政権発足直後にTPPから撤退したトランプ大統領は通商政策に関して日本に甘い姿勢を示したわけではなく、むしろ両国の間でリップサービスを繰り返してきたのは安倍首相ではなくトランプ大統領だと言えます。

実際に、トランプ大統領の通商政策の顔ぶれは下記の通りです。

ピーター・ナヴァロ通商産業政策局長(鉄鋼大手ニューコアから支援を受けて映画作成、嫌中であり、日本の非関税障壁等にも言及してきた。)

ウィルバー・ロス商務長官(直近までアルセロール・ミタル取締役を務める)

ギルバート・カプラン国際貿易担当次官(レーガン政権時代に対日交渉に従事、鉄鋼業界ロビイスト)

ロバート・ライトハイザーUSTR代表(レーガン時代のUSTR次席代表で対日交渉に従事)

という主なメンバーだけでこの陣容です。トランプ大統領は対中交渉を念頭にアジアの通商政策の専門家として、かつての日米経済摩擦時代の闘士を集めているのです。これだけの面子が集められているのに対し、通商問題に関して「同盟国だから」「日米関係が良好だから」貿易交渉が甘くなると思うことはナンセンスであり、むしろ「日本を良く知っている敵が揃っている」と認識すべきです。

トランプの関税措置は想定どおり。日本政府の「不作為」が招いた結果

北朝鮮情勢や米中関係が急展開を見せる中で、米国側から見て日本が何らかの態度を変更する可能性はありません。日本に残された持ち札は経済交渉における大幅な譲歩と政治任用ポストにズラッと並んだ米国防衛産業関係者から要求される武器購入だけということになるでしょう。その上、トランプ政権との貿易戦争を想定していた中国は早くも米国を抱きかかえるモードになりつつあり、米中・米日の通商問題における距離感も変わりつつあります。

トランプ大統領は昨年から大統領令などで鉄鋼・アルミ輸入への関税等の準備を進めており、中間選挙イヤーである本年にそれらが行動に移されることは想定されたものだと言えます。たとえば、昨年3月31日に中国・日本等との貿易戦争を念頭に置いた幾つかの大統領令を発令し、7月21日には製造業と防衛産業基盤のサプライチェーンに関する調査を行う大統領令を出し、そして年明け2月には商務省の鉄鋼・アルミ産業に関するレポートが提出されました。他にもUSTRや国際貿易委員会などの発表なども含めて、丁寧にトランプ政権の行動を追っていれば公開情報だけでも事が起きることに気が付きます。

また、日本政府は直近2月時点でトランプ支持者化した共和党保守派総会CPACの様子やペンシルヴァニアの下院選挙世論調査推移などの現地情報に鑑み、目の前に迫る危険性を予測できたのではないかと思います。トランプ大統領に貿易赤字の相手国として何度も名指しされているにもかかわらず、何ら報復手段も抱き込む有効な手段も講じられていないように見受けられる状況は、米国が同盟国を守る・裏切る以前に、日本政府の不作為でしかありません。

生き残りをかけていた韓国、台湾等との違い

北朝鮮情勢などで国家としての生き残りがかかる韓国の対米交渉は熾烈な状況となっており、トランプ政権の鉄鋼・アルミの関税は免除されたものの、米国側との新しい貿易協定を締結することになりました。文政権としては厳しい内容ではあったと思われますが、韓国はかつての廬武鉉政権も米韓関係がギクシャクした際に、米韓FTAという隠し玉を出すことで立て直した経緯もあり、北朝鮮状態が緊迫する中でカードを切った形となっています。

その結果として、韓国との協定は輸出に依存する韓国に為替条項を飲ませるなど、今後の日中との交渉のパイロットケースに仕立てあげられてしまいました。筆者が大統領選挙直後に訪米した際に、ペンス副大統領にペーパーを上げていると語った有力シンクタンクの対日通商政策担当者は「日本の為替政策には問題がある」と明確に言及していました。今後、日中は両国の金融政策を最後の防衛ラインとして米国と交渉することになるものと想定されます。

ワシントンD.Cでは、アジア諸国は必死に米国の政策に影響を与えようと活動しています。台湾なども自国の生き残りをかけて共和党関係者等との新たなシンクタンクの立ち上げなど活発な動きを見せています。日本政府はトランプ政権で影響力が低下した既存のパイプを中心とした活動を踏襲しており、他の東アジア職と比べて資金力の割には外交的なプレゼンスが大きいとは言えません。早急な体制・首相の立て直しが必要と言えるでしょう。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

 

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渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員

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