自由放任のネットテレビの公共性

2018年04月02日 06:00

AbemaTVには、昨年の総選挙直前に安倍首相が出演して注目を集めた(当時の番組より引用:編集部)

視聴者の声を聞くべきだ

安倍政権が検討している放送事業の見直しに対し、テレビ局、親会社にあたる新聞社から猛烈な批判が巻き起こっています。論点が多岐にわたり、何を重視するかはそれぞれの利害で異なります。今後、放送と通信の垣根がなくなるといっても、放送法の第一条の「公共の福祉(利益の意味)に適合するように規律し、その健全な発展を図る」という精神をどう継続させるかを私は重視します。

テレビ、新聞側の反論は新聞紙面などで知ることできるのに対し、放送業務に参入したいネット事業者が「公共の福祉」、「善良な風俗を害しない」、「事実を曲げない」などをどう考えているのか、考えていくのか、もっと知りたいですね。放送業務と通信事業が一体となった新しい法律、新しい事業が生まれてくる、発展していくとしても、放送業務の社会的責任、公共性を自覚することは今後も変えてはいけないと思います。

ネットの世界は、情報の広場、雑踏というか、情報の群衆のようなものでしょう。伝統的なメディア、政府や民間一般の機関などが発信源になっているものもあれば、群衆の流れのようにとらえどころがないものもあります。従ってネット全体に政府規制、法律的な規制をかけることは物理的に不可能です。ただし、電波を使った放送事業は公共財です。利害関係者が集まって方向性を決めるのでなく、利用者、視聴者の考え方を重視すべきでしょう。

規制なしでは、すまされない

見直しの原案にある「民放の放送設備部門と番組制作部門を分離」が実現できれば、ネット事業者は自分たちの番組(ソフト、コンテンツ)を「放送設備会社」の設備を借りて社会に送ることができるようになります。電力事業における発電(番組)と送電(放送設備)の分離に似た姿でしょうか。ここに新規参入したネット事業者には社会的責任、公共性を守る責任が生じるのだと思います。「これからのネット時代は規制はそぐわない」ではすまされません。

すでに「Abema TV」のように、地上波テレビと同じように、ニュース、ドラマ、アニメ、バラエティなどの番組を見られるネットテレビが存在します。地上波の設備を借りることができるようになれば、もっと事業を拡大できると考えているのでしょう。現在の民放テレビの番組はどの局も似たり寄ったりで、同じタレントがいくつもの局の番組に登場し、同じようなことを言う。飽きますね。

民放の番組作成力が落ちていますから、新しいアイディアを持ったネット事業者が参入すれば、活性化するし、テレビ離れが進む若い世代を引き付けることができるかもしれません。既得権を守ってきた垣根を取り払う効果はあるでしょう。ネット事業者が参入してくると、「テレビ番組の質の低下を招く」と、社説で警鐘を鳴らす新聞もあります。どうでしょう。民放の番組の質のはすでに低下しており、この批判はあたりません。

それより最大の問題点は、「政治的公平性」が柱になっている放送法第4条の削除です。政治は政権批判が厳しいと、「政治的公平性をに欠ける」として、報道番組に介入してきたことが少なくなく、民放ばかりでなく、NHKとのあつれきもありました。規制緩和論者からは「4条がなくなれば、自由な政治的主張ができるようになるから喜ぶべきだ」との主張を聞きます。

第4条の削除の狙いは何か

どうなのでしょうか。第4条の削除に対し、「政治的権力を持つ側が自分たちに有利な番組を作成して、視聴者に提供できるようにするのが狙い」、「政権批判ばかりしていると、ネット事業者の参入を促すぞ。政権批判をほどほどにしておけ」、「政権側は本気ではない。政治的な脅し過ぎない」、「新聞、テレビも見ず、ネット依存の無党派層を取り込む」など、様々な見方ができます。

とにかく、少なくとも「政治的公平性に欠けるといってきた政権が、第4条を削除するなんて、明らかに政治的思惑が潜んでいる」と、考えるべきなのでしょう。もう一つ。規制を緩やかにするからいっても、電波には公共性があり、信頼性を低下させるわけにはいきません。

参入する事業者の考え方を知りたいですね。「公共性や信頼性とは何であり、どうやってその基準を決めるのか」という問題があります。参入してくる事業者には「ネットの世界に通用しない考え方だ。公共性や信頼性に欠ける事業者は視聴者から見放され、淘汰されていく原理、原則に任せるしかない」と片づけるのだとしたら、それは利害関係者が決めることではなく、利用者が決めることです。

ネットの世界は玉石混交で、だめなものは見放され、淘汰されるという原理に任せる。「利用者が公共性や信頼性を求めているのなら、そうした努力をしている事業者は生き残るはずだ」という考え方ですね。新聞には新聞法があるわけではないのに、信頼性を高める自己努力をしています。それでも朝日新聞のように記事のねつ造、誤報事件が起きます。その結果、淘汰されるかどうかは、読者の選択に任せる。新聞の場合はそれでいいのでしょう。

放送事業も同じ扱いをするしかないというのなら、それは事業者が決めるべきではありません。今回の方針を打ち出しているのは、政府の規制改革推進会議です。利害関係者が中心の集まりでしょう。広く国民の声を集めるべきです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年4月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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