2兆円かかっても国産戦闘機の開発を継続すべきではない理由

清谷 信一

F-2A/B戦闘機(空自サイトより:編集部)

2兆円かかっても国産戦闘機の開発を継続すべき理由   100年にわたる航空優勢が失われてもいいのか(JB Press

このお話は前提条件が先ず間違っています。

カネをかければ日本でまともな戦闘機が開発できるというのが筆者の前提ですが、それが存在しません。

我が国には戦闘機を作る要素技術はありますが、どのような戦闘機を作るのかということに関する考えを纏め、プロジェクトを実現する当事者意識と能力が欠如しています。

まず、戦闘機を作るための情報収集を殆ど行っておりません。ベトナム以後多くの空戦が行われてきましたが、それらに対する情報を殆どもっていません。

当然ながら、諜報組織もないので、非公然な手段は使えません。
であれば、他国以上に公然情報取得に力を入れるべきですが、それをやっていません。

更に世界の航空見本市やコンファレンスは殆ど行っていません
10年ほど前の技本の海外出張予算は年間100万円以下、ぼくの取材費以下でした。しかも海外出張は退職前の偉い人たちのご褒美旅行に使われていました。

防衛駐在官の数も多少増えましたが、まだ少ない。フランスのようにDGAの技術アタッシェがいるわけでもない。
しかも防衛駐在か技術関連の外電を送ってきても殆ど活用されない。

しかも外国の専門誌を読んでいる士官は「マニア」とか「おたく」と呼ばれます。

こういう組織がまともな情報収集分析を行っていると考えるのであれば、余程の世間知らずです。

そして、防衛省では予算分配は全部大事ですから、薄く広くばらまかれます。
結果重要政策に資源を集中できません。

主力戦闘機はもはや進化の袋小路に入った恐竜なのかもしれない。だがその次には、間違いなくドローンなどの無人機の時代が来る。少なくともドローンや無人機においては、ステルス技術、高運動飛行制御技術、高出力小型センシング技術、軽量機体構造技術、ネットワーク戦闘技術システム、統合ソフトウエアが重要なカギとなるのは間違いない。

防衛省は無人機の研究も実用化も力を入れてきませんでした。
結果中国やパキスタンからも遅れており、2~3週遅れです。

かろうじて実用化された陸自のヘリ型UAVは全く使い物にならないクズであることはぼくが報じた通りで、調達が中止されました。

つまり航空機に関する将来の見通し能力が防衛省には著しく欠けているとうことです。

開発費にしても、米英よりは相対的に主導権を握れるインドやタイやベトナム、もしくは資金的に豊富なUAEのような国家のいずれかと共同開発することでいくらか減らせるだろうし、量産効果も高まる。

このあたり、全く過大評価です。それは自国でまともな戦闘機が作れる国の話です。その能力が無い上に、国際共同開発も、他国に輸出をしたこともないのにできるわけがありません。

F-1にしても、F-2にしても失敗作であることを自認して、その反省に立てば良かったのですが、それが全くない。ウリナラマンセー状態です。F-1は手探りでまだしも、F-2はその経験がありながら、失敗しました。

国産をするための方便として、他国にないスペックや運用をでっち上げてまともな戦闘機ができるはずがありません。しかも投下予算も少なかった。特に基礎研究の予算なんぞは雀の涙でした。

F-2が成功した機体であれば空自が調達数を減らすことなどありえません。
良く石破大臣が反対したからだといわれますが、「たかが大臣ごとき」が反対しても通常役人が決めたことはひっくり返りません。F-2の問題は空自が一番良く知っていたわけです。

また国産技術が優れており、開発能力の維持を図るのであれば、F-15Jの近代化もF-2で培った技術を使ったはずですが、アメリカ様に丸投げでした。

しかもその後のFXで選定でも、戦闘機開発&生産基盤の維持をするのであれば、F-35は当然ながら候補にはあがりませんでした。

これがユーロファイターであれば、アップグレードプログラムにもパートナーとして参加でき、事後の独自の近代化も可能だったでしょう。その可能性と生産基盤を自ら潰したわけです。
これで新世代の戦闘機を開発するだというのは精神分裂です。

またF-35の導入によって、国産兵装の開発もなくなるでしょう。かりに空自の戦闘機の半分がF-35になるのであれば、国産兵装の必要数は単純計算で半分に減ります。それかF-35に搭載可能なサイズに設計する必要があります。

第2の理由は、ここで国産化を諦めると、我が国が完全にジェット航空機の設計・製造能力を失ってしまうからである。今はまだMRJのおかげで航空エンジニアが維持できている。だが十数年後には設計・製造の両面の技術基盤が崩壊し、20年後には完全に消滅するだろう。

別に民間機を開発すればいいだけの話です。それか練習機でもいいでしょう。いささか我田引水もいいところです。

可能性があるのは共同開発ですが、それもアメリカと決別する勇気がいります。アメリカは核心的な技術を開示しません。カネだけむしり取られて、下請けにされるのがオチですよ。

やるのであれば、スウェーデン、独仏英あたりとの共同開発でしょう。
インドなどと組むのは論外です。

防衛予算が今後大幅に増大する可能性はありません。
仮に戦闘機の開発、生産基盤の維持が最重要であったならば、何かを諦めてそこに資源を集中すべきだったし、情報も収集も行うべきでした。ところがご案内のように情報収集はお粗末で、予算も総花的でした。

調達単価が、ペイロードが3倍のC-17に匹敵し、維持費がF-35並みの国産輸送機を開発予算までかけて調達する必要は無かったでしょう。

戦闘機にしても機数を減らしてパイロットを増やせば運用効率が上がったし、いつまで旧式のF4EJやRF-4なんぞを維持して無駄な予算を喰って予算を無駄使いすることを止めれば良かった。

しかも早期警戒機まで国産開発で無駄遣いをしようとしています。

当事者意識と能力をもたないくせに、あれが欲しい、これが作りたいというのはお子さまと同じです。

■本日の市ヶ谷の噂■
陸自の小火器は、耐久性が要求仕様に入っていないトンデモだったが、内局の圧力で新小銃、新拳銃についても高くて質の悪い銃器しかつくれない国内メーカーに仕事を落とすために、耐久性は仕様にもりこまない方針との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。