女性が女性にセクハラする日本社会

河井 あんり

同業の女性議員がみんな経験し感じていながら、票を失うのが怖くてこれまで誰も(私自身も)口にしていないことですが、私たち女性議員は、男性有権者のみならず、女性有権者からのセクハラをしょっちゅう受けています。そしてそれは、男性からの無邪気でバカバカしい発言などと違って、はるかに辛辣で意地悪で、私たちの心の中にいつまでも突き刺さるものです。

女性議員は、身につけているものから髪型、結婚、出産についてまで、様々に有権者の皆さんからアドバイスをいただきます。私も地元で初対面の女性から「誰かが言っていたけど、旦那さん、種無しだって本当?」と聞かれた時には言葉を失いましたし、PTAの会合であるお母さんがタバコをふかしながら「子供のいないあなたに子育てなんか語る資格はない」ととうとうとお説教されるのをうなだれてじっと聞いたこともあります。

ヒールの靴、高い靴を履いていれば生意気だと言われるというのは、この業界では暗黙の了解で、女性議員や政治家の妻は、みんな地元では低い靴やスニーカーを履いているものです。でもこのあいだ、地元で私のことを「コツコツさん」と呼ぶおばさんがいました。はじめ意味がわからなかったのですが、ヒールの靴で歩いている音らしいです。ふーんだ。ほかにも、洋服や髪型を、地元のおばちゃんたちのいう通りに合わせていたら、自分に何が似合うかわかんなくなった、と笑い飛ばしている女性議員もいます。

いつもおじさん達を相手に議場で喧嘩している私ですが、喧嘩は政治家としかしない、というのが私の信条です。いくらショッキングで常識はずれなことを言われても、有権者に言い返すことは私は決してしません。おそらく他の女性議員も同じではないかと思いますが。

男性有権者からも「子供はできんのか?」とか、「俺がつくってやろうか」とかしょっちゅう言われますが、そんなのかわいいものです。仕事上の付き合いの中でそういうことを言われる私たち働く女性の本音は、「めんどくさいなあ」です。5歳児みたいな幼稚な男たちが何か言っている。5歳児に何言われたって別に傷つきはしないけど、相手してやらなきゃいけないし、とにかく「めんどくさい」というのが正直なところです。

でも女性からの性的嫌がらせの言葉の重みは違います。私はこれまで受けた言葉の数々を思い出すと、今でも容易に涙が浮かんできてしまいます。かくいう私は学生時代、とても信頼していた先生からレイプされそうになったこともありました。この件については、学校側からも公式に謝罪を受け、私の中ではもう済んだ話です。普通の男女関係でも許されないのですから、学生と先生の関係でそのようなことは決して許されることではありません。しかし、レイプ未遂より遥かに心の中に大きな棘がぐさりと突き刺さっているのが、同性からのセクハラなのです。

だから私は、日本社会におけるセクハラ問題を、男vs女の問題だとは思っていません。男女間の闘争という構図にした方が私たち女性議員は女性を敵に回さず女性票を失わなくてすみます。むしろ同情してさえもらえます。そして、女性有権者にも、遠回しにわかってもらえるのでは、という期待感もあるのかもしれません。しかし、これは、性的格差や異性間の問題ではありません。日本社会全体が、女性に対してセクハラをする国なのです。もしかすると男性の皆さんは男性なりに、やはり同性、異性から性的な嫌がらせを受けているのかもしれません。

社会全体からたくさんの傷を受けてきた女性の一人として、私は実のところ、日本社会はこういうものだと諦めています。しかし、社会を変えるために立ち上がろうとするならば、こういうべきなのかもしれません。「もう、他人のことに干渉するのはやめようよ」と。人は人、私は私、なのですから。

河井 あんり 広島県議会議員(広島市安佐南区選挙区、自民党)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程修了。(財)海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構)地球フロンティア研究システム、科学技術振興事業団(現・科学技術振興機構)、広島文化短期大学非常勤講師を経て、2003年初当選(現在4期目)。公式サイト