山口達也さんの課題:被害者ありきの依存症問題

田中 紀子

NHKニュースより:編集部

昨日、TOKIOの皆さんに対して、治療を見守って欲しい!という記事を書きました。

TOKIOの皆さん、辞表はどうか2年間保留にして下さい

依存症の治療に向き合うことは、並大抵のことではありません。
だからこそ周囲の人達の支えが必要だと思っています。

ただ、この問題が複雑なのは、アルコール依存症からの回復という側面の他に、「未成年者に対する性暴力」という問題があるからです。

この「被害者がいる依存症問題」というのは、もともと依存症問題がベースにあり、それが行き過ぎるために、犯罪を犯してしまったわけですが、これがまた色々と誤解が多く、メディアのミスリードが起きています。

まず「依存症と言えば許されるのか?」という言葉が一番投げかけられますが、許されていません、普通の事件と同じ手続きがとられています。謝罪し、示談金を支払い、起訴猶予となっています。

全く、許されてなんかいないのに、まるで依存症者がずる賢く、罪から逃げているかのような発言は、どうか慎んで頂きたいと思っています。

次に「被害者にとって依存症かどうかは関係ない!」と言われますが、そうです関係ないです。
被害者の方には被害者支援が必要で、トラウマを癒すグリーフワークには、様々なものがあり、その人の経過観察をしながらすすめていきます。性暴力被害者のための自助グループも有り、この同じ経験をした仲間の癒しのプログラムも効果があります。

しかしどんな回復プログラムであろうと、大前提として「あなたは決して悪くない」ということが言われるわけで、間違っても「相手は依存症だったのよ。だから許してあげてね」などと言われることは絶対にありません。

もちろん私たちだって「依存症なんだから仕方ない」などと思っていません。
なんでここまでいく前になんとかできなかったのか?と思っています。

ですから「被害者にとっては、依存症かどうかは全く関係ない!」といきり立っていってる人を見ると「もちろんそうですよ」としか言いようがないです。

こういう人は被害者プログラムなどの知識なく、勝手に被害者を忖度して言ってるのですが、こういう人が実は一番人を傷つけています。

様々な性暴力の被害者の仲間達と関わってきましたが、多くの被害者たちは「同情」と「わかったふり」を最も嫌います。「可哀想」などと言われようもんなら、その人に絶対本心など打ち明けないでしょう。
同じ目線に立つこと、これがとても大事です。

そしてもう一つ「加害者が目につくことは、被害者は嫌に違いない」ということを言われます。
それはそうかと思いますが、今の世の中では、例え一般人でも加害者を目にしてしまうことがあります。
性暴力の加害者が肉親であることは多いですし、同級生や知り合いだったりするとSNSで繋がってしまったり、うっかり見てしまったり、噂を耳にすることもあります。そして性暴力の被害者は知り合いであることの方が多いのです。

でも被害者が回復するということは、相手が生きている限り、相手を目にすることはあれど、それでも自分の人生は脅かされない!と、自信を持って立てることだと思っています。

今回の場合は被害者が未成年者ですから、回復まで一緒にサポートしてあげること、フラッシュバックに見舞われた時など、すぐに助けを求められる体制を整えておくこと、誰か仲間と繋がること、などなど周囲の大人が整えてあげるべき環境が様々にあると思います。おそらく示談金の中にこれら治療体制のための費用が加味されたのだと思います。

では、示談金以外に、山口さんにできる謝罪とは何か?です。
世間の誤解に「被害者に許して貰う日が来るまで・・・」という考えがあると思いますが、これこそ被害者からすればいい迷惑です。被害者は自分自身を許し、とらわれから自分を開放するだけで、加害者のことなど知ったこっちゃありません。

ですから、山口さんにできる謝罪は、まずベースにある依存症から回復すること、そして次に性暴力の加害者プログラムを受けることです。性暴力の加害者は俗に言う「イヤよイヤよも好きのうち」と言った、認知のゆがみがあります。これを是正するのです。

そして山口さんは有名人ですから、回復したら自分の認知のゆがみが、回復してどのように変化したのか?
回復のプロセスとそのストーリーを語ること、つまり今度は同じ問題を犯した加害者の支援にまわるのです。

何年経っても、このことから逃げないで下さい。
よく芸能人は、復帰すると過去のことをまるでなかったことのように、一切触れたがりませんが、もうそんなことが許される時代ではありません。山口さんには、今の現実がついて回るのです。だから、この現実を受け入れ、この出来事と共に生きるしかないのです。

どうか逃げずに前を向き、まっすぐにこの問題と向き合って欲しいです。
人前に立ち過去を語ることは、とてもしんどいことだと思います。
でもどんなにバッシングされても、心ない言葉をかけられても、加害者支援をライフワークにしながら生きていって欲しいです。真摯にその活動をやっていけば、きっと理解者が増えていくことと思います。

そして山口さんが、バッシングされたまま、社会の片隅に追いやられ、孤立することがありませんように。
何故なら、そうなってしまうと同じ性暴力の加害者は、自暴自棄になり、ますますなりを潜めてしまうからです。
山口さんが同じ問題を抱えている加害者たちの、回復への道になって欲しいと願っています。

山口さんには、こういったハードルを一つ一つ乗り越え、今はきっと大嫌いになっているご自分を、もう一度愛せるようになって頂きたいです。何故なら、自分を大事に出来ない限り、他人を大事にはできないからです。

「依存症からの回復とは?」と聞かれたら、私はいつも「自分を愛せるようになること」と答えています。


編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年5月4日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。