次期戦闘機、F22主体に開発提案を歓迎していいか? 

清谷 信一

F-22ラプター(Wikipediaより:編集部)

次期戦闘機、F22主体 ロッキード・マーチンが日本に打診
貿易赤字を問題視するトランプ氏の意向か(日本経済新聞)

連休中にでる目を引くニュースは大抵、そのタイミングを見はからって出された観測気球であることを疑うべきです。
新聞社はニュースが枯れる時期なので、この時期に人目を引くネタは歓迎されるわけです。
そしてネタに関して批判的に裏を取ったり、分析りしないこともこれまた多いわけです。
ですから、この記事もそういう視点で眺めるべきものだと思います。

FXは30年ごろから退役するF2の後継機だ。戦闘機の開発は10年超を要する。日本政府は19年度からの中期防衛力整備計画(中期防)に向け、年内にも方針を決める。

FXは総額6兆円規模の計画になるとの政府試算がある。整備や廃棄などのコストのほ
か、開発費と100機程度の取得費にそれぞれ1.5兆円かかるという内容だ。

まず、F-2の後継機と断言して宜しいものか。F-15Jの未改修機のほうが早めに能力と、耐用年数の問題がでてきます。仮にF-2とF-15J未改修機を1:1で調達するならば約200機のビックビジネスです。
陸自でも10式が74式の後継といいつつ、90式まで退役させる予定です。
どうも自衛隊の調達に関しては腰が定まらないことが少なく無いようです。

そしてコストもこれ楽観的です。確かに既存機の改良ですから、一から開発よりはコストが掛かりませんが、共同開発では揉めることもあり、F-2でもかなり開発費は高騰しました。しかもF22よりもF-35はソフトウェアの開発にはより桁違いのコストが掛かっています。新型機のソフトウェアのコストも相応にかかるでしょう。

また調達単価は150億円ということになりますが、F-22の調達単価はざっくり180億円程度でした(最大は260億円)。果たして自衛隊の例の調子の五月雨式の調達で、その値段が実現するわけはないでしょう。更に開発費を按分すれば予定通りでも一機300億円です。現実的にみれば、最低限に開発費を抑えても調達単価は1機200億円を割ることはにないでしょう。果たしてそのような余裕があるかどか。

おそらくはF-22の機体にF-35のシステムを移植することをベースと考えているのでしょう。

ロッキードは今夏にもF22とF35の混合型の開発計画の詳細をまとめる。ロッキードは日本経済新聞の取材に「日米両政府とF2後継機の選択肢を検討することを期待している。日本の安全保障に資する、革新的で費用対効果の高い技術を提供できる」と答えた。

さらに現状では米空軍もプログラムに参加するかどうか分かりません。仮に米空軍が参加して、日米で開発費を割り、また生産単価が下がるならばまだ実現の可能性はあるでしょう。
それにしても毎度の五月雨式の調達方式を変えないことには劇的な調達コスト削減は適いません。

更に申せば、戦闘機の技術移転に消極的な米国が気前よく技術移転をしてくれることは期待すべきではありません。特にソフトウェアやシステム統合については尚更です。

結局はアメリカの軍需産業に貢ぐだけ、という結果になりそうです。
しかも開発費や調達単価が高騰すれば必要な機数を揃えられない可能性も高いでしょう。

以前から申し上げているように、国内での戦闘機開発の基盤を残すとのであれば、ユーロファイターのライセンス国産の1択しかありませんでした。足が短いのはコンフォーマルタンクを日本用には搭載すれば宜しかった。独自の改良を加えることも可能でした。また欧州製機体を採用することで米国に対する交渉のカードも手にはいりました。
42機は中途半端なので、3個飛行隊、せめて60機以上にすべきでした。
ユーロファイターは基本制空用の戦闘機であり、兵装も多い。制空戦闘において数の不利を多少なりも補えます。

これまた提案しておりましたが、時間をずらして実用化されたF-35Bを導入する。この二機種を導入しながら、2030年以降を目指して、次期戦闘機を共同開発する。これが現実的な路線だったと今でも思っております。

現在の空戦は総合戦です。戦闘機に質と数だけではありません。
AWACS、早期警戒機、電子戦機、空中給油機、海自の護衛艦などとの連携が必要であり、その中でどの程度の資源を戦闘機に割くのかということが問題です。

前に書いたように、戦闘機の予算を低減するためにアラート専用の安い戦闘機の導入も一手でしょうし、機数を増やすよりも、搭乗員を増やして、常に全力の機体が出撃できることを重視するも手だし、沖縄に予備の航空基地をつくったり、空母を運用することも検討手段でしょう。
また戦闘機は制空に特化して、空自には対艦攻撃や対地攻撃を原則求めない、というのも一つの考え型でしょう。

つまり、戦闘機の調達は戦闘機だけの問題ではないということです。
更に申せば、過度の軍事面でのアメリカ依存が果たして国益に沿うのかどうかも検討する必要があります。

■本日の市ヶ谷の噂■
陸自のAAV7は40ミリのMk19ランチャーはFMSで調達されたが、12.7ミリ機銃はFMSで調達されず、多くのAAV7の12.7ミリ機銃は装着されていないとの噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年5月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。