日程闘争からの解放:与野党が真に政策を競うための国会改革へ

小林 史明

ここ最近の国会の混乱で、私たち政権与党にお叱りを頂戴するのは当然のことですが、それを追及する野党のほうも国民の支持を得ているとは言い難いのが実情です。

実際、連休中に掲載された日経新聞の世論調査でも、国会審議を拒否し続けた野党6党の対応について、64%が「適切でない」と回答し、「適切だ」の25%を大きく超えている状況です。つまり政治全体が支持を失っている状況であり、その一つの大きな要因は「日程闘争」という国会戦術です。

なぜ野党は日程闘争をやらざるを得ないのか

最近大学生との懇談の場で「どうして野党は審議拒否しかできないのか?」という質問を受けました。なぜ、こうした日程闘争が起きるかといえば、国会のシステムにも大きな原因があります。日本の国会は、会期中に議決できなかった法案が廃案となってしまい、次の国会では振り出しに戻ってスタートするルールになっているのです。

加えて、日本の国会では、政府与党が提出する法案は事前に与党内でかなりの時間議論されていることもあり、野党が修正できる余地があまりなく、結果、日程闘争に持ち込むしかなくなっているのです。

4月20日から続いた野党の審議拒否はGWを挟んだこともあって「17連休」などと揶揄されていますが、自民党も野党時代には日程闘争をやっていました。つまり、仕組みが原因となっており、この構造的な問題を解決する必要があります。いずれにしても日程闘争は、与党も野党も官庁も、何より国民にとっても得られるものは何もありません。

なお、以前から官僚の働き方改革についても問題となっていますが、大きな要因は国会対応であり、その国会対応によって長時間労働が発生するのは、日程闘争によって国会日程が不安定になることからきています。以前勉強会でその点をお話ししたところ、関心を持っていただいた記者さんが下記記事をまとめられています。

「霞が関で働きたい人はいなくなる」官僚の長時間労働は“機能不全”な国会のせい(ビジネスインサイダー)

ですから、一連の政治不信につながる問題の根本的な原因というのは、政治と行政の関係、あるいは国会の仕組みのあり方に行き着きます。国民やメディアが「与党と野党は政策論議で切磋琢磨を」と望んでも、実は日本の国会の仕組みがそのとおりにやりづらいメカニズムになっている現実に目を向ける必要があります。先ごろ国会改革を求める機運が高まりつつあるのは、まさにこうした実情があるからなのです。

英国議会に見る政策論議の仕組み

(イギリス国会議事堂:Wikipediaより)

では、どうすれば与野党が建設的な政策議論をたたかわせる仕組みになるのでしょうか。参考になるのは、イギリス議会のクエスチョンタイムと法案審議時間を政府側が決定するモデルです。クエスチョンタイムというと、日本では党首討論のモデルになったことで知られていますが、実はイギリスでは、党首討論(与党党首でもある首相VS野党党首)だけではなく、本物の閣僚と影の内閣の“閣僚”による質疑も行われているのです。

そして、法案審議の時間については、法案提出時に審議時間も政府が提案することとなっており、日程闘争が行われない仕組みになっています。その一方で野党には政府と徹底して議論する機会が設けられているのです。

イギリスの下院では、“閣僚級”同士のクエスチョンタイムは月曜から木曜まで1時間実施されます(参照:国立国会図書館『英国における政権交代』)。同じようなシステムをもし日本に導入したら、野党側はいまよりも専門的で、かつ実のある政策論で追及し、法案の修正や廃案を迫るようになります。当然のことながら、野党としては政権担当能力を示す方向にインセンティブが働くようになるでしょう。

これは政権側にとっても厳しいながらメリットがあります。本質論で攻められるとなれば、矢面に立つ閣僚は、付け焼刃の勉強では対応できなくなります。そこで、諸外国に比べ大臣の国会審議への拘束がきつすぎる現状を変える。政策の勉強や現場視察、あるいは外遊などに時間をあてて政権側も研鑽を積むようにすることで今よりも生産的な時間の使い方になります。

ちなみに河野外務大臣もかつて同じようなことを提言されていて、副大臣や政務官も、影の副大臣、影の政務官と論戦する方式も提案されています。このやり方であれば、私自身もまさに野党が擁する“影の総務政務官”と、電波問題や地方創生などで実務的な濃いレベルの論戦に挑むことになります。つまり、与党議員も自ずと鍛えられます。

ポスト平成の国会改革議論がスタート

さて、ブログでのご報告が遅れましたが、自民党の若手議員30人で構成し、3月にスタートした「2020年以降の経済社会構想会議」では、まさにポスト平成の国会改革を主要な論題のひとつにしています。こども保険を提言した「2020年以降の経済財政構想小委員会」(小泉小委員会)の後継組織にあたり、私も事務局長代理をつとめています。構想会議は、国会改革と合わせて政治主導、政官関係、行政機構についても新時代の仕組みにふさわしい方向性を示していきます。

これまで2週に一回のペースで開催してきましたが4月から週一回にペースアップ。講師には、平成の政治の動きを統治の観点から分析した「平成デモクラシー」の著者でもある、日経新聞の清水真人編集委員、小泉政権時代の道路公団民営化に携わった猪瀬直樹・元東京都知事、民主党政権で統治改革を施行した松井孝治・元官房副長官(現慶応大学教授)、政治学者の竹中治堅・政策研究大学院教授、小泉政権の要だった竹中平蔵・東洋大学教授など、いずれも各分野の第一人者に話をうかがってきました。

ここまでの勉強会を踏まえ、昨日9日の会合で各議員の考える改革案を提出しました。私自身も今回のブログで書いたような改革案を出しました。事務局長の村井英樹議員とともに、今月下旬までに提言のとりまとめを行いたいと思います。