朝鮮半島と日本の国益(特別寄稿)

2018年05月19日 06:01

韓国大統領府Facebookより:編集部

夕刊フジに、「 朝鮮半島と日本の国益」という連載をした。本稿はその内容を大幅に加筆したものだ。

①「核武装した統一朝鮮」したら第9条はほとんど空文化~偽リベラルは能天気だが

米朝首脳会談が6月12日、シンガポールで開かれることになっている。いろいろ北は、策を弄しているが、これを止めて、何も得はないだろう。それでも止めるというなら内輪もめか、金正恩が飛行機が怖くなったかだろう。

さて、激動する朝鮮半島情勢だが、どうしたわけか、「日本の国益」という観点からどう見るべきか、突っ込んだ議論はあまりお目にかかれない。

古代における統一国家成立以来、日本にとって半島は頭痛の種であり、2000年のあいだ、さんざん悩まされつづけてきた。その半島の状況が、70年近い眠りから覚めて動き出した。新しい秩序がどうなるかは、日本国家の存立にかかわる重大事であり、日本外交にとっても正念場というほかにない。

日本外交は、いささかたりとも油断することなく、厳しく国益を追求して対処すべきだと思う。「民族統一はいいことだから、黙ってお祝いしてあげよう」などと甘いことを言っているときでないはずなのだ。

私は、東西ドイツ統一(1990年)直後に、当時の通商産業省からパリに派遣されて(ジェトロ・パリ事務所産業調査員)、3年間、欧州情勢を「フランス=ドイツ関係」を軸に調査研究していた。

1993年に帰国したら朝鮮半島を担当する課長になったので(通商政策局北西アジア課長で中国・インド・半島担当)、韓国政府や朝鮮総連系の人々にも、ドイツのケースが朝鮮半島にどう参考になるか、アドバイスする機会も多かった。

ドイツでは東西統一と言うが、形式的にも実質的にも「西ドイツの東ドイツ吸収」というかたちで統一が実現したことを忘れてはいけない。その意味ではややこしい問題は、国内的にはあまりなかった(南北の場合にはそんなわけにはいかない)。

しかし、国際的には、フランスなどの西欧諸国もソ連も、本音では「統一に反対」だったから、黙って賛成などしてくれなかった。統一ドイツの出現は、ヨーロッパの平和の撹乱要因になりかねなかった。だから、フランスでは「『ゲルマンの自由』は守られるべきだ」と、つまり「分裂したままにしておくべきだ」という声も強かった。

だから、西ドイツのヘルムート・コール首相(当時)は、各国が勝手気ままにする、さまざまな要求に対して、あらゆる約束を各国に気前よくしながら説得したのである。だから、もっとも強く反対するかもしれないといわれていたフランスのミッテラン大統領(当時)も以外にも賛成に回った。

逆に、ドイツ国内での混乱を避けるための準備はきちんとできなかった。本当はもう少し時間をかけて段階的にやりたかったのだが、コール氏は事を急いだ。私は当時、フランス人の経済人グループと一緒に、コール氏に会ったことがある。ドイツの要人と連続会談をするという企画があって、それに参加させてもらってドイツを訪問した一環だった。

このとき、フランスの財界人の一人が、「拙速すぎではなかったか?」「もっと時間を掛けてやった方が経済的にはダメージが少なかったのではないか」と質問したのだが、コール氏は「あのチャンスを逃したら、二度と統一はできないと思った。だから、問題があること承知で、邪魔が入らないうちに急ぎ断行した。だから、後悔していない」と答えていた。

南北統一を急ぐことは、非常な犠牲を韓国にとっても、日本など周辺諸国にとっても及ぼす覚悟ですべきもので、浮かれていてはいけないのである。コール政権は混乱は起こしたが、それを覚悟し、やれるだけの準備はしていたのである。

日本にとって最も重要なのは、北朝鮮の「核の放棄」について、将来にわたって保証を得ることだ。もし、「核武装した統一朝鮮」が出現したら、常識的には対抗するしかない。

そういう意味では「憲法9条を維持したい」とか、「軽武装国家でありたい」という立場ならば、そこは譲ってはいけないはずである。だが、偽リベラル勢力は、能天気である。
これはまことに不思議なことなのだが、詳しくは後ほど論じる。

②トランプ大統領の「イラン核合意」離脱表明は、日本には朗報~北朝鮮の「甘い幻想」を打ち砕いた

ドナルド・トランプ米大統領が「イラン核合意」離脱を表明したことを、日本のマスコミは悪いニュースのように伝えているが馬鹿げたことである。

ヨーロッパにとっては、このトランプの決定は最悪だ。イランという大国が、パーレビ国王が無分別に世俗化を進めた反動で、ホメイニによる宗教革命が起きて、「イスラム教条主義国家」になってしまったので、西欧諸国は困り果てていていた。

それが、長い交渉を経て、ようやく正常化できる道筋をつけて、段階的にではあるが、常識的な国になる道筋をつけたのに、その道をトランプ氏の気まぐれで壊されることは災難である。

しかし、北朝鮮情勢を抱えるアジアのためには、大歓迎というべきだ。北朝鮮の核廃棄は、厳しく後戻りできない「リビア方式」を参考に徹底しない限り、日本は安心できない。対して、北朝鮮は、「イラン方式」のような緩い方式を狙って交渉するだろう。

ここが大事なことなのだが、トランプ氏は「イランとの合意は、まったく信じられないくらい緩くて史上最悪だ」と公言してきた。だからこそ、イラン核合意を廃棄して、しかも、過去よりも強い制裁をイランにかけるということは、北朝鮮に「甘い幻想」を抱かせないために、実に効果的だと思うのである。

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は、このことで、甘い期待を打ち砕かれ、「わが国は、全面的な核廃棄しか生き残る道はない」と思い知らされたはずである。

だから、ヨーロッパ発のニュースで、この離脱を悪く言っているからといって、日本にとっても良くないという雰囲気で報道しているマスメディアは、本当にごみのような存在だと言わざるを得ないのである。「イランに厳しくすると、二正面作戦はできないから、北朝鮮にとっては朗報だ」という人もいる。

しかし、「悪の枢軸」の2つの国に対しては、どちらに対しても厳しくしてこそ万全を期すことになるのではないか。

北朝鮮とイランは、相互依存関係にある。核・ミサイルなどの技術は相互に行き来してきたし、これからもそうだと覚悟すべきことなのだ。核とミサイルの両方について韓国とイランと、どちらかに甘くしておくと、危なくて仕方ないのである。

特に、日本にとしては、北朝鮮が実験場を閉鎖したり、材料を引き渡したりしても、現在までの「核開発の成果」を温存することは許してはならず、将来、再びその強化に向かう可能性を封じてもらわねば困るはずなのである。

もちろん、イラン合意の破棄については、長い目で見て「米国は、大統領が交代するたびに方針が変わる」という評価を受けるというマイナスはあると思う。ただし、それはトランプ氏ばかりが悪いともいえないのではないか。

バラク・オバマ前大統領は、過度にリベラルな主張にこだわり、強引に実行していった。オバマケア(医療保険制度改革)や、エネルギー政策、外交政策などでも、政権が交代したら覆されることが予想できそうなことを、大統領権限を駆使して無理矢理に実施にうつしたことが多々あった。

だから、そのときから、こうした反動は予想されたことであって、右に急展開するトランプも困ったものだが、その混乱は、左に急展開したオバマにも十分にあるのである。

③核問題と拉致問題を包括的に解決するしかない~「日本も乗り遅れるな」論はナンセンス

ドナルド・トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と会うことを、リチャード・ニクソン米大統領の訪中宣言(ニクソン・ショック=1971年)に例えて、「日本も乗り遅れるな」という人がいるが、まったくナンセンスだ。

あのときは、沖縄と繊維貿易問題などをめぐり、佐藤栄作、田中角栄両内閣とニクソン政権、特にヘンリー・キッシンジャー国務長官との関係が悪く、日米の信頼が稀薄な時期で、その結果、米国が日本に配慮を欠いたのである。

佐藤政権は、アメリカに沖縄返還の見返りに、繊維問題でアメリカの要求を呑むことを約束しておきながら、それを誠実に履行しなかった。秘密の約束であることをいいことに、あとで値切ったのである。その結果、日米関係は最悪になった。

そこで、ニクソン訪中(72年)を受けて、朝日新聞などが日米を離反させるような報道(工作?)を大展開した。その結果、田中内閣は焦って動くことになり、米国の頭越しで、台湾を見捨てるかたちで日中国交回復を断行したため、ますます日米関係はおかしくなった。

アメリカは日本に追随せざるをえなくなったのである。
そのあたりは、拙著『日本人の知らない日米関係の正体 本当は七勝三敗の日米交渉史』(SB新書)で細かく分析したことがあるので興味のある方は、そちらを参照し手欲しい。

それに対して、現在の日米関係は極めて良好である。しかも、安倍晋三内閣は、朝日新聞がどう騒ごうが、一喜一憂して焦てって愚かなことをする心配ももないから、その意味では安心して見ていられるといものだ。

トランプ大統領は賢明にも、多くがコリアン系である国務省の朝鮮問題専門家など、「北朝鮮に融和的過ぎる」として信用していない。柔軟路線に傾きそうなレックス・ティラーソン国務長官を更迭し、強硬派のマイク・ポンペイオ氏を新国務長官に抜擢した。駐韓米大使には、日本人の母を持つハリー・ハリス米太平洋軍司令官を充てる方針だ。オーストラリア大使に予定されていたのをすげ替えた。

こうした一連の人事によって、北朝鮮は、いかなる工作の余地もなくなっているのである。
トランプは「場合によっては、席を立つ覚悟なしに良い交渉は出来ない」と公言している。これこそ、北朝鮮と交渉する時に「一番の要諦」なのである。

そのトランプ氏にとって、安倍首相は最も信頼できるアドバイザーだ。そこも米中のときと根本的にちがうのである。拉致問題については、私はもともと、「北朝鮮との直接交渉」を推奨してきた。蓮池透さんなどとよく似た意見だった。

しかし、正恩氏の時代になって、北朝鮮の核開発があまりにも進んだ以上、拉致問題で大きな前進があったとしても、制裁の大幅な緩和は難しいとみるべきだ。将来の約束だけで交渉が前進するとは思えない。

それなら、核問題をトランプ流で一気に解決してもらい、しかも、米朝交渉で拉致問題も取り上げて、包括合意の中に組み込んでもらう方が早く結果が出ると思う。

日朝で直接交渉をしろという人に聞きたいが、日本がいま出せる弾はあるのだろうか? 私には思いつかないのである。。

④北朝鮮との外交経緯を検証すれば日本の立場は強い。慌てる必要なし
拉致と核・ミサイルが解決すれば経済協力

日本の対北朝鮮政策は、保守派の一部が威勢良く言うほどには自由度があるわけでないことは認識すべきだ。過去の約束や外交の連続性など、常識的な枠組みは守らなくてはならない。それを知らないと話にならない。そこですこし日朝関係のおさらいをしてみよう。

そもそも、南北朝鮮の分断は、日本には何の責任もないことは確認したい。分断は米国や中国が、ソ連の対日参戦を欲して朝鮮半島の北半分の占領を容認したことによって生じたものである。責任はもっぱら彼らにあり、部分的には南北両政府の身勝手にもある。

日本はサンフランシスコ講和条約の発効(1952年)後に、韓国と国交樹立のための交渉を行った。だが、李承晩(イ・スンマン)大統領の韓国は、「日韓併合の無効」と「植民地支配の賠償」という、非常識な要求をしたので膠着状態になった。

その後、朴正煕(パク・チョンヒ)政権になって現実的な姿勢になったので、日韓併合は「もはや効力がない」ということで有効性の議論は棚上げにし、賠償は行わないが経済協力をすることになった。

この経済協力を上手に使って、韓国は「漢江(ハンガン)の奇跡」を実現した(=最近の韓国は『日本のおかげではない』といっているが…)。

一方の北朝鮮は、日韓併合の無効や賠償論に固執し、同じ条件での交渉に応じなかった。さらに、90年の金丸訪朝団は、南北分断の結果生じた戦後補償も検討するようなことを言って事態を混乱させた。また、拉致問題の発覚や、核・ミサイル開発もあって行き詰まった。

そうした混迷を解決したのが、2002年の小泉純一郎首相の訪朝と、「日朝平壌(ピョンヤン)宣言」である。

ここで、北朝鮮は「拉致問題や核・ミサイル問題の解決」を約束し、日本は「国交が回復したら韓国にしたのと同等の経済協力」を約束した。その金額は、貨幣価値の変動などを考慮すると「1兆円程度」などといわれた。

従って、日本は拉致問題や核・ミサイル問題が解決したら、1兆円かそれ以上の経済協力をする道義的義務はある。ただし、条件が満たされたかどうかを決めるのは日本だ。その意味で、日本の立場は強いので慌てる必要はない。

北朝鮮に対し、「経済協力は、核の完全廃棄が実現した後しかダメだ」というべきだし、拉致問題も解決したという認定をするのは日本側に主導権がある。日本から平壌などに行く必要ない。

ただ、拉致問題について、あまりハードルが高そうな印象を持たれると、ドナルド・トランプ米大統領の気を損ねる可能性はある。最後の段階では、妥協も必要だし、明確なメッセージを送らねばなるまい。

⑤拙速な南北統一は大混乱必至~市場経済では、北朝鮮住民は使えない

朝鮮半島は、ベルリンの壁の崩壊のようになり、西ドイツが東ドイツを吸収したように一気に統一に進むのはコストが大きすぎる。

それでも、北朝鮮の政権が崩壊してしまったら、そうなるだろう。韓国で「統一の混乱を恐れるな」という声は少数でも、それを阻止する勇気を多数派は持たないだろうからだ。民族主義の情熱は理性でおさえられるものではない。

なぜ、拙速な統一が困るのか。
まず、政治的には、北朝鮮の人口(約2500万人)が、韓国(約5100万人)の半分近くあることが問題だ。東ドイツの人口は、西ドイツの4分の1だった。自由選挙をすれば、北朝鮮の住民がキャスチングボートを握ってしまい、現在の韓国憲法の規定通りすれば、過半数は要らないから金正恩(キム・ジョンウン)大統領だってあり得る。大混乱は必至だろう。

経済的には、北朝鮮の住人が市場経済のもとでは、ほとんど経済価値を持たないことが問題だ。ドイツ統一から2年ほどして、ドイツ連銀の最高幹部の話を内輪の会合で聞いたことがある。彼は「最大の誤算は、東ドイツ出身者は企業で使えないと分かったこと」と語っていた。

明治になって、武士の多くが教育はあっても、「武士の商法」で身を立てられなかったのと同じだ。教育レベルは高くとも指示待ちだし、生産性向上の気がなかったのである。

現在でも、脱北者は韓国社会に溶け込めず、「北朝鮮に帰りたい」という人も3分の1くらいいると聞く。東ドイツや共産中国は35年だけ市場経済から隔離されただけだったが、北朝鮮は70年だからより難しい。市場経済への移行は、まず、北朝鮮の緩やかな市場経済化から始めた方がいい。

そうしたときに、日本の在日朝鮮・韓国人の役割は大きいと思う。

完全な核廃棄がされ、拉致問題を解決したら、そのときは、日本は北朝鮮に大いに協力すべきだ。高句麗(北朝鮮)にとって、日本は唐(中国)と新羅(韓国)に対して、有効なカードでなり得る。日本にとっても同様だ。彼らにとって、日本は中韓と違って脅威にはなり得ない。

それに、在日出身の母をもつ金正恩一家は、韓国の指導者ほど反日的でもなさそうだ。朝鮮総連の人々も、状況が変われば、北朝鮮のなかの「親日勢力」として機能するだろう。

拉致問題の陰で忘れられがちだが、「日本人妻の帰国」や、北朝鮮への帰還者の家族との再会は、人道上の見地からも急ぐべきだ。

ただし、準備はすべきだが、「慌てて北朝鮮にすり寄っていく必要などない」ということも、確認しておきたい。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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