バロンズ:トランプ政権の関税発動は交渉手段の一つか

2018年06月18日 08:00

38286026701_8ba650520d_z

バロンズ誌、今週のカバーはオマハの賢人、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイを取り上げる。バフェット氏と言えば今年88歳を迎えるなか、取締役会にエネルギー部門のグレッグ・アベル、再保険部門のアジット・ジェインを加え、後継者選びが近い誰を指名するか注目が高まる状況。そのバークシャーに、バロンズ誌は自社株買いを含め最高経営責任者(CEO)の交代に合わせ、行動すべき8つのことを提言している。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週のテーマは通商政策と米朝会談、米連邦公開市場委員会(FOMC)などイベント目白押しだった前週を総括する。抄訳は、以下の通り。

関税、核、金利:怒りより響きに満ちて—Tariffs, Nukes, Rates: More Sound Than Fury.

前週はAT&Tとタイム・ワーナーの合併が承認され、米国中間は互いに関税賦課を発表し貿易戦争は激化の様相を呈してきた。

シェイクスピアの名作「マクベス」で主人公マクベスが語るように、「愚か者が語る話は、響きと怒り(sound and fury)に満ちているが、何の意味もない」ものだが、市場もそれに同調しているようだ。ダウは前週0.89%安で取引を終えたが、S&P500は0.02%高ナスダックは1.32%高で終了している。

FOMCの金融政策決定は、サプライズを与えることなく、25bpの追加利上げを行った。欧州中央銀行(ECB)は年末までの量的緩和終了を発表、日銀は現状の緩和路線維持を決定した。

投資家が注目すべきは、あまり報じられていない関税対象品の中身だ。米国は中国輸入品500億ドル相当に関税を発動すると発表したが、かつて米大手銀行でリサーチ部門を率いてきたデビッド・ゴールドマン氏は対象品につき「鉄パイプから産業化学品、ガラス成形品など大半はオールド・エコノミーに属する」と評価する。今ではフラットスクリーンに取って代わられたブラウン管モニターも含まれ、マクベスの名言にある通り「(愚か者が話す)響きと怒りにとりとめがない」ことを表す。

市場の明らかな無関心は、トランプ政権の関税措置が世界恐慌発生直後の1930年に成立したスムート・ホーリー法の復活ではなく、大統領の交渉術の一つと判断しているためだろう。トランプ大統領は金正恩委員長に対し「小さなロケットマン」がミサイル発射によって「炎と怒り」を招くと非難していたが、米朝首脳会談後は北朝鮮の脅威はもはや消えたと明言した。これと同じく、投資家は関税発動によって有利な条件を引き出す交渉の一環とみなしている。

Fedに就いて言うなら、パウエルFRB議長は成長が加速しインフレが目標値2%に到達するなか、金利正常化を中止する理由はないと強調した。注目されなかったが、パウエルFRB議長は、過去2回の景気後退の後にインフレを加速と利上げペースの引き上げをもたらさず、むしろ金融市場の急落が発生したと指摘していた。つまり、バブル発生は崩壊を伴うというメッセージを発したと考えられよう。

米債利回り動向は、リスク資産が抱える懸念材料だ。米10年債利回りは3%を割り込むなか、米2年債と米10年債の利回りスプレッドは40bp付近に縮小し流動性逼迫を表し、景気後退をもたらさずとも景気減速の兆しが現れている。米長期債利回りの伸び悩みは、ECBが2019年夏まで利上げしないと宣言したことも、影響しているのだろう。

米2-10年債スプレッドの推移。
spread
(作成:My Big Apple NY)

資本市場のフィールド・オブ・ドリームと言えば、資金調達を行う企業に投資資金が流入することだ。例えばツイッターは、6月5日にS&P500構成企業に組み入れられた直後に5%高を遂げた。同社の経営戦略が改善されたわけではないが、時価総額が16億ドル上乗せされたことになる。S&P500と言えば時価総額加重型であるため、SPDR S&P500 ETF(SPY)はFAAMG(比重はフェイスブック=1.99%、アップル=4.1%、アマゾン+2.92%、マイクロソフト=3.3%、アルファベット(グーグル)=2.94%)と呼ばれてもおかしくない。

米国の社債市場にこのルールを当てはめるなら、インデックス運用の指数上位にくるのは時価総額ではない。320億ドルものiシェアーズ iBoxx 米ドル建て投資適格社債 ETF(LQD)で比重の大きな企業の共通点は、債務額の大きさと買収・合併(M&A)を背景とした資金調達実施の2つだ。例えば合併が成立したAT&Tとタイム・ワーナーは、両社で1,810億ドルもの債務を抱えるが、LQDのポートフォリオに占めるAT&Tの割合は2.59%で、ベライゾン・コミュニケーションとほぼ同水準だ。保険会社エトナを690億ドルで買収したCVSヘルスが占める割合は、1.82%コムキャストは21世紀フォックスに650億ドル提示したが、同社の割合は1.42%だ。

債券指数でも、同じことが言える。iシェアーズ・コア米国総合債券市場ETF(AGG)のうち38%が米国債、27.7%がフレディマックやファニーメイなど政府保証機関のパススルー証券で構成される。つまり、債務を多く抱える国が指数で上位を占めることになり、イタリアも世界で第3位の債務国であることを踏まえれば、GDPがインドやブラジルの後塵を拝し8位であっても、指数での影響力は大きい。

インデックス闘志の落とし穴とも捉えられる問題につき、マスミューチュアルの副最高投資責任者のクリフ・ノリーン氏は「市場全体を買うことは、我々にとって意味を成さない」と語る。その上で「保険契約者にとって、力強い投資パフォーマンス達成に極めて重要なことは、社債に関するリサーチとデューデリジェンスである」と述べた。債券インデックスの比重を見る限り、借金が多いところにインセンティブを与えているかのようだ。


米中が発表した関税について、おさらいしていきましょう。

トランプ政権は、通商法301条を根拠に約500億ドルの中国輸入品に25%の関税を賦課する決定を下しました。しかし、いきなり約500億ドル相当の輸入品に課す訳ではなく、1)818品目、340億ドル相当の中国輸入品(自動車、航空、電気機器など)に7月6日から発動、2)284品目、160億ドル相当の中国輸入品(半導体などハイテク産業育成を推進する”中国製造2025”に関連した製品、化学品など)は、意見公募や公聴会を経て後日決定、3)284品目の関税発動に際し意見公募、公聴会などを実施、7月31日が公聴会後の反論意見提出期限——となります。というわけで、2)の284品目は、少なくとも7月末まで関税を発動しません

中国は16日に早速、対抗措置として農産品や自動車関連を対象に7月6日から340億ドル相当に25%の関税を発動、その後、石油や石炭に140億ドル相当を課す案を提示しました。2016年の米大統領選でトランプ政権を支持した州を直撃する案となっており、既に中国が関税措置発表を受け大豆生産地のイオワ州では「6.25億ドルの損失を被るリスク」が指摘されていました。トランプ大統領が支持率に異変が生じるのか、注目です。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年6月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑