逆説的だが、仮想通貨の自由は規制によって護られると思うワケ

有地 浩

誰が何のために取引をしたか判らないという「匿名性」と、世界中の台帳に取引が記載され、中央集権的な管理・処分から「自由」であることは、仮想通貨の重要な特徴であるが、このいわばアナーキーな仮想通貨の性格を徹頭徹尾守り抜こうとすると、かえってその存在を危うくする。

最近、金融庁が仮想通貨交換業者6社に対して、本人確認の徹底や反社会的勢力の取引の未然防止等の体制の不備を指摘して業務改善命令を出した。業界最大手のビットフライヤー社などが含まれたため、この措置への反響は大きく、仮想通貨は人気が離散して衰退するに違いないと仮想通貨の将来を悲観する意見や当局が規制をすることに単純に反発する意見がネット上で多く見られた。

しかし、マネーロンダリングや犯罪資金・テロ資金の隠匿に仮想通貨が使われないようにすることは、当たり前のことであり、まっとうな地球市民であれば当然そのための規制には賛成するはずだ。今年3月にブエノスアイレスで開かれたG20サミットでは仮想通貨に対する参加各国の考えに開きがあって規制を導入するには至らなかったが、早ければ今月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議ではマネーロンダリング規制等の観点から何らかの規制が合意されるのではなかろうか。

確かに匿名性は仮想通貨の大きな特徴の一つではあるが、これが仮想通貨に対する世間の風当たりをきつくしている原因のひとつでもある。仮想通貨が今後世界中で受け容れられて、発展していくためには、匿名性に対して規制がかかるのは仕方ないことだ。

また、たとえそうなったとしても仮想通貨のもう一つの重要な特徴である政府・中央銀行からの独立性は護られる。私は、この点を守ることこそが仮想通貨にとって重要な事だと思っている。

むしろ仮想通貨の健全な発展のためには、本人確認等をしっかりすることが必要だ。そしてそれだけでは十分ではなく、金融庁はさらにもう一歩踏み込んだ措置をとることが必要だ。それは何かというと、仮想通貨を金融商品取引法の対象に含めることである。金融庁が資金決済法を改正して、世界に先駆けて仮想通貨を決済通貨として認知したことは大英断として評価できるが、現在の仮想通貨取引市場の状況を見るにつけ、仮想通貨をFX(外為証拠金取引)のように金融商品取引法の対象に早く含めることが必要だと考える。

現在の仮想通貨取引市場は、猛獣や毒虫が跳梁跋扈するジャングル状態になっている。市場の取引の厚みが株式市場などに比べてずっと薄いために、ちょっとした大口の取引があるだけで相場が大きく上下することが背景にあるが、十分な規制がかかっていないために、見せ玉や馴れ合い売買、風説の流布などの相場操縦と疑われるような値動きが多く見られる。このため今年に入ってからでもアメリカのSEC、司法省、CFTCは既に何度も仮想通貨交換業者を相場操縦などの疑いで調査している。

また、仮想通貨取引では、株式の新規公開(IPO)になぞらえられるICOに人気が集中しており、極めて短時日の内に多いものでは何百億円もの資金を集めることに成功している。しかし、ICOには株式公開の際に求められる内部統制の充実や財務の健全性などに関する基準が存在せず、単にICOをする企業のビジネスプランの人気投票となっており、集めた資金がどのように使われたか不明であったり、資金を集めた後でビジネスプランに描かれたビジネスがなかなか始まらないという詐欺に近いものや、さらにはICOを騙ってお金だけを巻き上げる詐欺そのものも現れている。

現状では仮想通貨は、モノやサービスの販売の決済に使われるのではなく、FX取引同様に投機目的の取引が中心となってることから、金融商品取引法による規制により個人投資家の利益を保護する必要性はとりわけ大きいと言える。

一般の個人投資家が安心して取引に参加できる結果、市場の厚みが増し、価格変動が落ち着いたものになれば、取引参加者がさらに増えることとなり、仮想通貨の発展は確実なものとなっていこう。