相場操縦で2億円を超える課徴金、いったい何があったのか

証券取引等監視委員会は29日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に対し、長期国債先物に係る相場操縦を行ったとして、2億1837万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告したと発表した。

証券会社による長期国債先物を対象にした相場操縦は初めてとなる。また、デリバティブ(金融派生商品)に限ると、過去最大の課徴金額になるそうである。

さすがにこれはびっくりした。私自身、長期国債先物(債券先物)に関わりたくて債券ディーラーとなったぐらいであり、1985年の債券先物の上場以来、15年程度は直接関わり、その後も間接的ながら関わってきた。

はっきり言って、何を今更という気がしなくもない。私が債券ディーラー時代には、今回の処罰の対象となった「見せ玉」のようなものは、ある意味日常茶飯事であったように思う。寄り付き前とかに大きな板を入れたり、出したりするのが普通にあった(と思う)。

それでもこれまで今回のような相場操縦の疑いで課徴金が課せられることがなかったのは、それがプロ同士の世界であったからだと勝手に解釈していた。ところが、債券先物が上場して33年目にして、見せ玉による相場操縦で課徴金が課せられたというのは、いったい何があったのか。

しかも、それが三菱UFJモルガン・スタンレー証券ということで二度びっくりである。取引所での債券先物については株の取引と異なり、銀行が準会員として取引に参加している。それだけ都銀を中心とした銀行は債券市場に大きな影響力を持っている。そのなかでも特に三菱銀行は一目置かれた存在ともいえた。その三菱銀行(いまは三菱UFJ銀行)の系列の証券会社に課徴金が課せられたのである。

証券取引等監視委員会がサイトにアップした「三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社による長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について」によると、相場操縦が行われたのは昨年8月25日午後6時34分頃から同日午後7時9分頃までの間。

債券先物は前後場と呼ばれる日中の商いが終了したあと、ナイトセッションという取引が15時半から翌日の5時半まで行われている。今回、見せ玉が行われたのは売買高が少ないナイトセッションで行われたものである。

手元のデータによると8月25日のナイトセッションの債券先物の売買高は5426億円となっていた。ちなみに25日の日中の商いは2兆4731億円となっており、ナイトセッションの売買高の少なさがわかろう。値動きも日中は150円95銭から151円10銭と15銭動いていたのに対し、ナイトセッションは151円07銭から151円17銭と10銭しかなかった。

現在のほうが債券先物は日中3銭しか動かないなど、さらに膠着相場となっているが、昨年8月あたりも15銭しか動かない、との感覚であったろうと思う。

それで動かなさに嫌気が差して?見せ玉を使って、151円13銭で177枚ショート(売)して、151円12銭で見せ玉を使って158枚をカバー(買い戻し)したのであろうか。158枚を1銭抜いたので158万円の利益である。どうやらこれを行ったのは一人のディーラーだったようで、見せ玉で商いを作って、158万円の利益のために、結果として2億円を超える課徴金が課せられたことになる。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。