被災者支援や迅速な救命救助を妨げる10の迷惑行為 --- 大田 進

2018年07月12日 06:00

NHKニュースより:編集部

西日本を襲った今般の記録的豪雨で、死者は150人を超え、依然70人以上が安否不明、約1万人が避難生活を送っており、平成では最悪の豪雨被害となった。行方不明者の捜索活動、重症患者への救命処置、避難者への飲食料をはじめとする物資の迅速な供給のため、24時間体制で奮闘している地元自治体や消防、警察、自衛隊、医療チームなどには敬意を表したい。

ところで、地震や水害など大規模災害発生時には、毎度のことながら、混乱状態にある救命救助現場をさらに混沌に陥らせてしまう数々の迷惑行為によって、迅速な救命救助、被災者支援活動が阻害されるという二次被害が発生する。

今回の豪雨でも発生した、又は今後懸念される10の迷惑行為を取り上げる。

 (1)冠水被害で孤立状態の被災者へのヘリコプター取材

今回の豪雨災害では、倉敷市真備町周辺で、多くの家屋が屋根近くまで冠水した。テレビのニュースでは、屋根上で手を振って助けを求める被災者をヘリコプターで中継しながら、アナウンサーが、「被災者の皆さん。助けは必ず来ます。大きな声で繰り返し助けを求めてください」と繰り返していた。

果たして、このアナウンサーは、孤立被災者の救護活動にとって、最大の阻害要因は、取材用ヘリコプターの大音量であることを理解しているのだろうか。助けを求める叫び声が、ヘリコプターの爆音でかき消され、救護が遅れてしまうという被害は、過去にもたびたび報告されてきた。

 (2)SNSによるヘルプの拡散

被災者が、「もう限界、早く食料を○○に」「△△に□□が取り残されているので、至急救助してください」といった助けを求めSNSに書き込むと、猛烈なスピードで拡散する。被災地の行政機関や消防本部などには、書き込みを見た遠方の一般人から、「食料を届けたいが、どうすればいいのか」といった相談や、「□□を早く助けろ。行政は何モタモタしているんだ」という怒りの電話が殺到する。

はっきり言って、SNSによるヘルプの書き込みと拡散は、迅速な救助・救援活動の妨げになる愚行である。行政は、限られたマンパワーの中で、優先順位を設定して効率的に活動を展開しているところに、個別の依頼に振り回されて、体系的・効率的な活動が妨げられるからである。

マスコミは、SNSによるヘルプの拡散によって救助された事例があれば、美談として針小棒大に取り上げる傾向にあるが、時として事実誤認のSNSの書き込みによって1人の救助に無駄なリソース投入を余儀なくされ、結果として10名が手遅れになってしまうリスクを熟考すべきである。

(3)有力政治家の介入

災害対策に尽力する行政機関にとって、厄介な存在が、有力政治家である。国なら国会議員、県や市であれば、県議や市議である。被災地を地盤とする政治家は、自らの地元を最優先で支援するよう行政の幹部に要求したり、政治家の親族や有力支持者に対する特別なサポートを依頼することもある。

政治家が有力であればあるほど、意向を汲んで対応する必要性が高まり、本来優先して取り組むべき救助活動が後回しにされてしまう事態も懸念される。議員からは、災害に関連して、必ずしも緊急性が高くない事項について個別照会や議会質問がなされ、行政はその確認に追われ、担当者が憔悴してしまう事態も珍しいことではない。

(4)行政の対応が遅いと糾弾するマスコミ報道

行政機関などは、限られたマンパワーの中で、最大限の努力で懸命に救命救助に取り組んでいるものであり、対応に遅滞が発生しているとすれば、何らかの要因が存在するはずである。絶対的なマンパワーや資機材の不足、あるいは橋の倒壊などによる交通網の寸断、悪天候や土砂災害の危険性、情報通信網の麻痺などなど。これらは、不可抗力で生じるものであり、行政に瑕疵があったり、担当者が怠惰であることを意味するものではない。

にも関わらず、マスコミが、無責任に行政の対応が遅いと批判したところで、現場で懸命に取り組む職員らのモチベーションダウンにつながるだけであり、行政の対応が好転することはあり得ない。

(5)行政トップの現地視察

行政のトップが、防災服を着て現地視察をする場面がニュースで時々流される。トップが陣頭指揮をとって行政職員や被災者を激励する姿は、被災者に安心感を付与する効果があることは否定しないが、トップの現地視察のために、事前準備や各種調整に、裏方の行政職員が、どれだけ多大の労力を割く必要があるかは意外と知られていない。

総理や大臣、知事などにとって、災害は、自らのリーダーシップを演出しつつ、メディアに露出する絶好の機会となる。行政トップが、いかにも現地でリーダーシップを発揮しているかのような絵柄をメディアに撮ってもらうため、行政は幹部から末端職員まで涙ぐましい努力を余儀なくされる。帰結として、本来、最優先で取り組むべき被災者支援が後回しとなるという本末転倒な事態が現場ではしばしば発生する。

(6)一般市民からの物資提供

「◇◇地域で⊿⊿が不足している」というニュースやSNSの書き込みを読んで、逸る心で善意から、当該地域に物資を宅配便で送りたくなる一般人は少なくないであろう。しかし、個々人の中途半端な物資提供が、真に必要な物資の緊急搬送の妨げとなる上に、被災地で提供物の仕分け作業に職員の貴重な時間を浪費させられた挙げ句、倉庫に山積みされ、結局未使用のまま廃棄処分に至ることが過去の経験から明らかである。

一時的に物資が不足しても、2~3日以内に、自治体が協定を結んでいる事業者や近隣自治体などから、十分な物資が供給されるので、一般人による善意の提供は御法度である。

(7)一般市民のボランティア活動

ニュースを見て、居てもたってもいられなくなり、現地にボランティアに出向く一般人も少なくない。しかし、専門的技術をもたない素人がボランティアで現地入りしたところで、足手まといになるだけで、被災者・被災地にとっては単に迷惑な存在に過ぎない。救護活動等は消防隊などの組織部隊や専門事業者などプロに任せるべきである。

(8)海外からの支援の申し出

災害規模が大きくなれば、外国政府や国際支援組織から、人道支援活動と称して、物資等の支援の申し出がなされるが、これもありがた迷惑である。関係政府機関は受け入れの調整に忙殺され他の業務の遅滞の原因になるし、外国から食品等が送られてくると検疫の負荷が増大するし、日本で汎用品とは規格外の資機材が送られても全く使い物にならず、単なる厄介な荷物が溜まるだけである。

(9)被災地入りする心のケアの専門家

近年、災害発生時に、心のケアの専門家を称する人たちが、支援活動を謳って救護所入りすることが増えている。職能団体にとっては、自らの社会貢献をPRする好機であろう。しかし、親族を失った被災者全てが、心のケアを求める訳ではない。時間の経過とともに、支援を必要とすることはあっても、被災直後の心のケア専門家の現地入りは、被災者の反発と反感を招くだけだ、ということを関係者は理解すべきである。

(10)多様な主体により募金受付合戦

一般市民による物資提供やホランティア活動は、迷惑行為に過ぎないという正しい理解が深まりつつあり、替わりに、個人ができる被災者支援として最近注目されているのが寄付活動である。寄付といえば、マスコミ各社やコンビニ、情報通信系企業などがそれぞれ独自に募金受付を行い、集金力の大きさで自らの社会的影響力の大きさを競い合っている感がある。各社バラバラに中途半端な集金を行ったところで、分配を巡って様々な衝突が生じる結果となる。理想は、日赤などに募金の窓口を一元化することだ。

以上、迅速な救命救助、被災者支援を阻害する10の迷惑行為を取り上げた。被災者支援のあり方を考える一助にしていただきたい。

大田 進 
大学卒業後、医療系企業への勤務を経て独立。行政やマスコミ関係のコンサル業務も受注。ブログで時事問題に関する雑感を綴っています。

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