不毛な政争こそが、国会の生産性を下げる --- 高橋 大輔

FCCJ動画、加計学園サイト、衆議院インターネット中継より:編集部

きっかけは、ある講演会の聴講

先月末ですが、知人からの誘いで邦人医療支援ネットワーク「JAMSNET東京」主催の講演会を訪れました。

そこでは、私にとって大きくふたつの収穫がありました。

ひとつは、熊谷晋一郎・東京大学先端科学技術センター准教授による基調講演「マイノリティーの健康格差:障害・スティグマ・言語」。

自らも脳性まひを患い、幼少期を過ごした1970年代は「障害者は健常者に近づかなくては、社会で生きていかれない」時代だった。それが80年代以降は法整備とともに、周囲の支援が受けられやすくなっていき、「社会が変わっていった」。

医療技術が進歩しても自身の病を完治させてくれることはなかったが、法律が社会を動かすきっかけとなり、多くのサポートが受けられるようになってきたことが当事者の視点から語られました。

また、最新の事例として「障害者総合支援法」が2015年の施行から3年を経て2018年4月1日から改正され、入院中の重度訪問介護の利用が可能になったことが当事者にとっても大きな意味を持つことなどが挙げられました。

バリアフリーに対する法整備は、必ずしも一朝一夕ではないし、それなりの時間がかかる。同法を必要としない私は恥ずかしながら認識すらできていなかった訳ですが、今回のテーマに限らず「法律がつくられることの意味」を改めて実感しました。

もうひとつは、終盤の質疑応答でBuzz Feed Japanの記者を名乗る方が「最近話題のLGBTについてどう思うか」という趣旨の質問をされたことです。

今回の講演会はLGBTを取り上げている訳ではないので、さすがに無理が過ぎるのではないか。筋違いでは、そんなどよめきが場内のあちこちで起こりました。

一方で、私が取材する立場だとしても、やはり同じことを聞いたかも知れない。

杉田水脈議員による新潮45への寄稿がにわかに非難を集めたこともあり、「来期の国会ではLGBTもまた、森友学園や加計学園みたいな政争の具になるんだろうか」そう思いながら会場をあとにしました。

数字から見えてくる、近年の国会の生産性

永田町では7月22日に第196回国会(常会)が閉会し、自民党の総裁選後に臨時国会が召集される見込みです。議論の主になるのは恐らく、西日本をはじめとする豪雨被害に対する補正予算や具体的な支援策の整備、そして自民党総裁選の行方次第では首班指名なども改めて行なわれるでしょう。

そして前述の杉田水脈議員に端を発するLGBTに関する問題も、本来議論されるべき論点を外れて俎上にあがると予想されます。折しも閉会後、杉田議員と同じ自民党所属の谷川とむ議員がネット番組に出演した際、「LGBTは趣味みたいなもの」と発言したことが、同党への非難を再燃させる結果となりました。

問題議員のLGBTに対する姿勢や不勉強は問われてしかるべきですが、そもそも国会の場で審議されるべき第一は、問題議員よりもむしろLGBTに関する法整備です。真に苦しんでいる人たちを支えるための議論が後回しになっては本末転倒であり、不毛という他にありません。与野党による政争が国民にとってどれだけの不利益になることか、それはこれまでの国会を振り返ることで明らかになります。

衆議院の公式ホームページでは、これまでの議案一覧が公開されています。その中で、毎年必ず開催される通常国会を比較すると、興味深い結果が浮かび上がります。

2015年の第189回国会から先日までの第196回国会までの審議法案数は、昨年の第193回通常国会が群を抜いています。4回中もっとも法案数が多かった一方で、成立件数はほぼ例年並みでした。提出元は参議院からの数が突出していますが、審議未了となったものは時間切れで自動的に廃案となります。

成立率に関しては、対象期間中で最低の29.3パーセント。この数字は森友学園や加計学園などの、いわゆる「もりかけ」問題に空費された結果とも無関係とは言えないでしょう。

もちろん、審議の対象となる法案は内容もボリュームもそれぞれ異なりますし、評価のポイントは決して一様ではありません。誤解を恐れずに言うならば、重要法案もあれば比較的軽微な法案もあったかも知れません。

その位置づけや優先の度合いは、当事者あるいは受益者によっても異なるでしょう。

それでも、こうして数字を並べてみると幾つかのことが言えます。

  • 昨年の国会は、近年の中でも審議すべき法案が沢山あった。つまり、通常以上に頑張らなければならなかった。
  • にも関わらず、成立した法案数はほぼ例年並みであった。結果、近年では最低の成立率となった。

つまりは、それだけ昨年の国会のパフォーマンス、それも見せかけでなく真価としてのパフォーマンスが低かったということです。結局こういうところで、私たちは割を食うのです。つい先日の第196回国会は成立率こそ持ち直していますが、提出法案数は144件と過去4期中の最低でした。

こうした結果に対する責任は、はたしてどこにあるか。国会議員やマスメディアだけに求めるものではありません。強いてあげるならば、政争に明け暮れた議会と、それを指摘するどころか、むしろ面白おかしく採り上げたメディア、そしてそれに乗った有権者それぞれの責任でありましょう。もちろん、このようなことを今になって書いている私自身も含めてです。だからこそ、せめて今後の国会には、不毛な政争にはっきりとノーを突き付けたい。

これまでの通常国会そのものの生産性は、果たしてどうだったでしょうか。

LGBTを政争の具にしないための、いくつかの提言

来たる次期国会において、LGBTを政争の具にしないためには、どうすればよいか。

いくつかの提言があります。

まずは、各党ともLGBT問題の核心について知見を増やすこと。折しも次の国会召集までは、与野党ともに研鑽の期間が与えられています。

先ごろ永田町で開催された「全国高校生未来会議」などへの参加や、専門団体の知見に耳を傾けるのも有効でしょう。

ただし、参加しました、あるいは要望を受けました、それだけで終わらせないでいただきたい。立法府としての役割、つまりは「困った人たちのための法律を整備する」ということを全うしていただきたい。これに尽きます。

そのためには、与野党それぞれの所属議員の方々が、いかに足で稼ぐか。安易にインターネットだけで楽をして情報を取ろうとせず、実際に討論の現場に足を運ぶ。そして何よりも、当事者の声に直接耳を傾ける。

あるいは、それぞれの党でタウンミーティングを開催し、参加者と向かい合って意見を吸い上げるのも良いでしょう。そうしたプロセスを積み重ねた上で、「社会課題の処方箋」としての法案につながる生産的な議論をしてほしい。

課題の解決策、そして論拠が伴えば、政争も立派な「政策論争」になります。

もちろん国会議員だけでなく、有権者が国会の運営進行に関心を寄せることも不可欠です。健全な関心が高まればメディアの視点も今より一段高くなるでしょうし、そうならざるを得ません。

少なくとも私は、先の国会のような政争に終始することを望みません。LGBTに限らずとも、しっかりとした論戦と、立法府としての矜持を保ち、守り続けること。そして何より、国会こそが生産性をあげること。

有権者の代表でもある国会議員の皆様には、それを期待したいのです。

高橋 大輔 一般財団法人尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト