補助金でキャッシュレス社会は実現できる?韓国にみる荒療治

2018年09月09日 06:00

来年度予算の概算要求が8月末に締め切られた。その概算要求の中で経産省は、キャッシュレス決済の普及に向け、中小企業での端末導入の支援などに30億円を求めたと報じられている。

果たしてこの予算措置はキャシュレス化の促進に効果があるものだろうか。予算要求の中身がわからないので、はっきりとしたことは言えないが、30億円のすべてが中小企業での端末導入促進に使われるわけではないと思われるので、仮にそのうちの10億円がこれに使われるとしよう。

クレジットカードや電子マネーの専用端末だと1台5~10万円はするので、予算の効果をより広い範囲に及ぼすためには、その一部の2万円だけを補助することになるのが普通だ。しかし、1台2万円程度の補助金では、お店が残り3~8万円を負担してでもクレジットカードの取り扱いをするようになるか、はなはだ疑問である。

カード端末代が高価なことだけが普及阻害の要因なのか?

端末をカード会社が購入して加盟店に無償レンタルしているような場合は、この補助金によってカード会社の負担が軽減されるのでカード会社の経営支援にはなる。しかし、カード会社としてはカード決済があまり見込めない店に設置してもコスト倒れになるので、補助金が支給された分だけ加盟店が増えるかというと、そうはならないだろう。一方で端末製造会社は端末の売れ行きが良くなるので、この措置はウェルカムだろうが、これでは中小企業への端末導入支援という補助金の趣旨とずれてしまう。

また、もし専用端末ではなくQRコード決済に使うスマホやタブレットの購入代金を補助するのであれば、今ではかなり安価なスマホやタブレットがあるので、お店の負担はほぼゼロになるかもしれない。しかし、仮にそうだとしても、10億円の予算で1台2万円のタブレットを全額補助したら、5万台しか手当てできない。加盟店が少ないと言われているJデビットでさえ全国に約45万店舗あるのだから、5万台では大海の一滴でしかない。

たしかに、これまで述べてきたように、日本のクレジットカード決済や電子マネー決済の普及のボトルネックの一つが高い端末代にあることは間違いないが、単に補助金を支給して安く端末をばらまくだけでは、キャッシュレス化は進展しない。

これまでも銀行系のクレジットカード会社などが、本体の銀行の営業力を使って、融資先等にクレジットカードの端末をばらまいたことがあったが、カード利用があまり見込めない店に無理に端末を置いても、手数料が高いことと相俟って、お店はそれを使わないまま端末はほこりをかぶり、5年の端末の保守期限が切れたところで解約されるということが多くみられた。

IMF管理下の韓国で行った“荒療治”

キャッシュレス化先進国の韓国の例を見てみると、アジア危機後のIMF管理下で、脱税防止、経済の効率化等を目的に包括的な措置を講じて世界最高水準のキャッシュレス化を達成している。

それは、クレジットカードで支払いをするサラリーマンに、カード支払額の一定部分を税金上給与所得から控除することを認めたり、クレジットカード払いをすると宝くじがもらえたりといった特典を付与する一方、お店に対しても、カード支払いを受け入れることに対して税制上の恩典を与えると同時に、すべての法人と年商が日本円で約240万円以上の個人商店にクレジットカード支払いを受け入れることを義務付けるという荒療治をしたことによる。

日本では、クレジットカード利用額に応じて給与所得者に所得控除を認めたりすると、加盟店の分布が首都圏に偏っていることなどから、地域的な不公平が生じるほか、財政赤字に悩む財務省がウンと言わないだろう。

また、ほとんどのお店にクレジットカード支払いの受け入れを強制することは、経済非常事態の韓国のような状況が生じない限り、政治的に非常に困難だと思われる。

改めて、キャッシュレス化への道のりは険しいと思わざるを得ない。

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有地 浩
株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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