超・文科省で進むAIの教育利用

2018年09月10日 11:30

「AI時代の教育を考える」と題するシンポを開催しました。

生徒一人ひとりに合わせた学習やデータの活用などAI利用教育の可能性が広がっています。そこで算数・数学、英語の教材を開発している企業とシステム導入した学習塾や予備校の発表から、AIと教育について議論しました。

登壇者は、atama plus中下真さん、Z会エデュース稲葉尚樹さん、メイツ遠藤尚範さん、ウェブリオ辻村直也さん、COMPASS神野元基さん、UNIVERSCHOOL湯浅浩章さん、河合塾河合英樹さん。それぞれプレゼンをいただきました。

2017年4月に設立されたばかりのatama plusはタブレットの個人レッスンを提供。一人ひとりの得意、苦手、つまずきをAIが分析、自分専用レッスンを作ります。冬期2週間の講習で受講生は50.4%の伸びを見せたとか。

Z会エデュースは塾でatama+を導入、人(講師)とAIからなる授業を提供しています。
同じく塾を経営するメイツは、iPadを導入することで3人を担当していた講師一人で24人の生徒を受け持つことができるようになったという成果の上に、ウェブリオのAIを導入、さらなる成果を上げているそうです。

COMPASSが提供するAI教材「Qubena」は7000ユーザを持ち、3年かかった算数・数学の学習時間を9か月に短縮。
これを導入したUNIVERSCHOOLの塾では1時間で問題を解く量が倍以上になったそうです。
生徒数11万人を擁する河合塾もCOMPASSと提携、アダプティブな出題を実行しているといいます。

爽快なプレゼンでした。

デジタル教育の次を行く、AI教育を開発し成果を上げる「意志」が明確な若いプレイヤーの熱を受け止めました。
デジタル教科書教材協議会(DiTT)をぼくらが創設してから8年、ようやく学校にタブレットやデジタル教科書が入る時期に、民間の塾・予備校はもうAI利用へと歩を進めています。これは必ず学校にも及ぶ熱となります。

感激したのは、「AI利用で子どもの成績は上がる?」という質問に、全員が間髪入れず◯の札を上げたこと。
当然と思います?思いますよね。

でも8年前、DiTT設立時のシンポではそうではなかった。
「デジタル教育で子どもの成績は上がる?」という質問に、登壇者は◯の札を上げなかったんです。

そのシンポは教育情報化の権威ある研究者が中心だったのですが、その先生方は「断定できない」「さらなる研究が必要」「成績アップが目的じゃない」というご意見。ぼくはその時、そりゃ日本の教育情報化が進まんはずだ、と納得しました。かなり時間がかかるぞ、と。

確かにデジタル化の目的は成績だけではない。学習意欲向上とか表現力向上とか、大事な効果があります。研究も必要だ。でも、保護者や子どもが最も気にする学力向上にプラスと断定できなければ、専門家にそれを目指す「意志」がなければ、前進することはあり得ない。

ぼくは、プレイヤーを変えなければ動かない、やる気のある民間プレイヤーが進まなければ、と感じました。
以来、運動を続け、ようやくデジタル教科書の制度化やプログラミングの必修化が政府方針となりました。
そして、なので今度はAIです。
これも気概ある民間が主導します。

保護者の反応も全員が◯。
遠藤さん「効果も出てきて、理解が深まり年々上々。」
河合さん「当初AIはうさんくさいと言われたが、子どもが楽しんでいて、親も成果を実感している。」

とは言え一筋縄ではない。
神野さん「OK Google、169÷13は?と聞き、13という答えを書いて宿題に使う子もいる」。
ですよね。
学習態度も向上するけれど、ゲーム感覚で遊ぶ子もいるので、先生による導入法が大事というコメントもありました。

中下さんは「AIは学習意欲ある子に向いている」と言います。
ただ、神野さんは「AIはモチベータにはなれない、AIだけじゃ無理」とのこと。先生の役割は、教える、から、共に学ぶ・学ばせる、に変わります。「先生はTeacherからGeneratorへ」(神野さん)。

AIもITと同様に先生方がどう使いこなすかがポイントのようです。
稲葉さんは「うまく乗れる人と乗れない人がいる」と言います。
河合さんも「教え好きの先生は、最初は難しい」とのこと。
神野さん「wifiの使い方などITリテラシーのほうがハードルになる」。

今は塾・予備校に入ったところですが、「学校も使うべき?」には全員が◯。
では「20年後、先生は置き換わるか?」は◯☓が半々でした。
役割が変わる、はコンセンサスですが、◯をつけた遠藤さんは「置き換わらせたい、という考えで進めている」とのこと。ぼくも開発者はそういう意志が大切だと考えます。

「AI利用教育の課題は?」
「意識・勇気」、「環境」という答えでした。
変化を受け入れる意志と、それを実現する環境。同意します。

「AI利用教育の可能性は?」
「人間とAIの共生」「学習と創造の両立」
IT教育を論じていたころは、アナログvsデジタル、リアルvsバーチャルといった二項対立が目立ちました。でもこの実践者たちは二項対立ではありません。リアリティーのある現場感覚です。頼もしい。

AI利用教育の推進。シンポを終えてのぼくの総括は「超・文科省」です。

デジタル教科書の実現は6年かかりました。ここに至る文科省の努力は大変なもので、敬意を表します。国全体を動かすのは大仕事です。しかしそれでもなお日本は教育情報化の後進国で、その改革にはさらなる時間がかかります。

ITからAIに歩を進め、後進国のキャッチアップから先進国によるリーディングに飛躍するためには、国全体のボトムアップではなく、民間主導で先端を伸ばすことに注力するのがよい。政府・文科省ばかりに頼らず、その枠組みを超えて、進むべき。

われわれDiTTとしても、デジタル教科書の制度化が実現した次のステップとして、先進分野の開拓に力を入れたいと考えています。
このため、「教育特区」を構築するなどして、AIやIoT、VR/AR、ロボット、ブロックチェーンなどの実証を手がけるなど教育☓先進技術の取組も進めたい。これらに関する政策提言も行いたい。

そしてそれはDiTTだけでは力が足りません。ITと教育に関わる民間プレイヤーが結集して環境整備に当たることが望ましい。設立準備中の「超教育協会」を通じ、パワーアップしてまいりたく存じます。

「「超教育協会」が立ち上がります。」

http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2018/03/blog-post_56.html


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2018年9月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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